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2004-06-26 レクイエム 後編

_ 25年後

_ サヤはアメリカ人ジャーナリストと結婚しアメリカ国籍を得た。そして自らもジャーナリストとして活躍しピュリッツァー賞を受賞した。それから程なく下馬評にも挙がっていなかったナオがノーベル文学賞を受賞した。

_ 2029年6月1日

_ サヤとナオはボストンの海の見えるレストランで食事をしていた。毎年6月1日に一緒に食事をするのが約束だった。どうしても都合がつかないときでも、その日には電話で話すかメールをするようにしていた。二人はずっと仲の良い友達だった。

_ 二人は黙って海を見ていた。色々話したいことはあったが、いつものように気楽に会話が弾まなかった。

_ 「願いがかなっちゃたネ」サヤがつぶやいた。

_ 「うそみたい・・・サヤのは当然だと思うけど・・・私は変だな」

_ 「そんなことないよ。みんながナオの実力を認めているわよ」

_ 「でも、早すぎるよ」

_ 「悪魔は来るのかな・・・」

_ 沈黙

_ 「夢だよ、あれは。二人で一緒の幻覚を見ていたんだ」とナオ

_ 「でも、もし本当だったら」

_ 「どっちかが死ぬんだ」

_ 「どっちかが殺すんだよ」

_ 「ごめんね、あんな約束をして・・・」

_ 「あのときは他に方法はなかったから仕方ないよ」

_ 沈黙

_ 「死ぬ方と殺す方、どっちがいい?」とサヤ

_ 「死ぬ方」

_ 「私も」

_ サヤはハーバード大学で夏季講座を持っていた。ナオはノーベル賞の受賞記念講演のためにボストンを訪れていた。

_ 「ナオが残る」とサヤが言った。「ナオは小説家なんだから私のことを書いてくれるでしょう。みんなが私のことを忘れないように」

_ 「いやだよ。あなたを殺して生きていくなんて無理。一緒に死ぬ」

_ 「うれしいけど、ナオが生き残るべきよ。生きてもっと素晴らしい作品を残して」

_ 急に日が翳り、あたりが暗くなった。

_ 2004年6月1日 12:25

_ そこは学習ルームだった。カーテンの隙間からさし込む光が金色の帯になった。ナオの手の中のカッターナイフがキラリと光った。


2009-06-26 東国原首相

_ 東国原宮崎県知事が、衆議院選への出馬要請に対して、自分を自民党総裁候補にすることを条件にしたことが話題になっている。

_ 国会議員でもなく、知事の任期途中の人間がそのような要求をすることが自民党からすると非常識と取られているようだ。確かにこれまでの例からすると、国会議員を何十年かやって推薦人が確保できるようになってやっと出馬できるようだ。でも国民の立場からするとそのような経験豊富な人に首相になってもらいたいのか疑問だ。

_ それがジャンボジェットの機長だったら、知識と経験と技能がある人でないと困る。いくらやる気のある人でも素人に機長は任せられない。

_ では首相に同じような条件が当てはまるかといえば、そうでもない。首相は国に生起するあらゆる事態に対応しなければならないが、だからと言って森羅万象に通じているわけではない。そんな人はいないし、そんな必要もない。

_ 弁護士だって新しい法律を全部知っているわけではない。むしろしょっちゅうやっている仕事の分野以外基本的なことも分からない。実際世の中複雑になりすぎて専門分野でさえ把握できない。だから突然法務大臣になった人が馬鹿な答弁をするのは仕方ない。多分他の分野でも同じだろう。

_ 首相になる人も得意分野は持っているのだろう。でも得意と言ってもその道の専門家にはかなわない。専門家からすると、中途半端に知っている方が面倒だ。変な思い込みが無い方が正しい理解が出来る。

_ 首相には優秀なスタッフがいるだろうし、外部にアドバイザーがいるだろう。それらのアドバイスを判断し選別する能力は必要だ。弁護士で言えばリーガルマインドで、知識ではなく筋として正しいかどうかを判断する能力だ。それがあれば細かい知識はいらない。

_ 東国原や橋本府知事が初めての知事という仕事で成果を上げているのはそのような能力があるからだろう。では同じように首相になってもその能力を生かせるのだろうか。無理だという人は、首相に必要なのはしきたりや約束事の縛りの中で人を動かす力だという。それは貸し借りの世界で、貸したり借りたりしているうちに理想などどこかにいってしまう。

_ 今の自民党が問題なのは、物事を動かす手段が目的化してしまっていることだろう。人を集めなければ何も動かず、人を集めて派閥を作っているうちにそれ自体が目的になってしまう。またそれには金がいる。民主党でも同じだろう。

_ このようなしがらみを断ち切るには、国民的な人気のある人が一気に頂点に立って、しきたりを無視して(新人だからできる)、他人の思惑にとらわれず目的を遂行するしかない。

_ 直接民主主義の制度がない場合には、今回の東国原のような方法しかない。自民党にはこれを受け入れる度量はないだろうが。


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