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2002-10-18 「宣戦布告」と北朝鮮

_ 「宣戦布告」を観たが不可解な映画だった。「北東人民共和国」の侵略に対して自衛隊が出動して日本国内で侵略者を撃退することがその国に対する宣戦布告になると言っているようだが、あまりにも非常識ではないか。

_ 宣戦布告といえば、今回の北朝鮮の核兵器開発の自認は「大量破壊兵器の開発」自体をアメリカに対する侵略とみなすブッシュ政権の立場からすれば、アメリカに対する宣戦布告になるのではないか。

_ 日本の場合、核兵器開発に拉致問題がからみ複雑になる。昨今の、涙また涙の報道は北朝鮮の思う壺だ。SFではよく異星人に拉致された人が帰ってくるが、実は外観は同じだが異星人が入れ替わっている、という類の話がある。今回の「一時帰国」は北朝鮮の立場からすれば訪日でありその目的は外交である。そして彼らの北朝鮮への「帰国」は日本からすると人質を取り返されたということになる。北朝鮮のねらいは、人質に対する日本国民の共感、同情を最大限に高め尚且つ人質は北朝鮮の意のままに動くように維持すると言うことであろう。日本人の彼らに対する感情移入が強まれば強まるだけ人質としての価値は高まる。

_ アメリカがイラクの次に北朝鮮を攻撃しようとする際、人質は楯になる。そして、最後の切り札として登場するのが横田めぐみさんの娘ではないか。彼女がテレビに出て攻撃を止めるように涙で訴えたら日本の世論は反米に動くのではないか。映画好きの金正日は、そのときのために自ら彼女に演技指導をしているかもしれない。


2003-10-18 「28日後・・・」と「ドラゴンヘッド」

_ 何れもカタストロフィを描いた作品だが印象は大いに違う。

_ 「28日後・・・」はダニー・ボイル監督のイギリス映画で、ウィルスによって人類(少なくとも英国)が絶滅に瀕する話だ。ウィルスは人格を破壊し、人間の攻撃性を極限にまで高め、血を介して伝染する。感染した人は10秒で発狂し攻撃してくるので、その前に殺さなければならない。

_ とにかく不快な映画で、良く出来ていたのでかえって観たあとの気分は最悪だった。楽観的と悲観的の二つのエンディングが上映されていたが、エンディングなどはどうでもいいから早く終わってくれと思った。

_ 生き延びるためには親友でも肉親でも殺すというのもいやだったが、ウィルスによって信頼していた人間が突然怪物になり攻撃してくるのは怖かった。子供の頃、仲良く遊んでいたはずのグループの中で気がつくと自分が一人攻撃の対象になっていることを発見したときの恐怖を思い出した。

_ ウィルスに感染した者を殺し、感染していない者同士殺し合い、最後に何人か生き残るが、残った連中が正義というわけではなく、カタルシスがない。

_ 「ドラゴンヘッド」は有名な漫画の映画化で、富士山の大噴火、大地震等で日本が形を変えてしまうほど破壊されてしまう。「28日後・・・」に匹敵する災害だが人々の反応は違っている。

_ 町ぐるみの集団自殺を企てる人々、恐怖を感じないように前頭葉を切除された子供、そして東京の地下の巨大な避難所には恐怖を感じなくする薬によって人格を失った多くの人々が無表情に何事もなかったかのように生活している。

_ 思うに、恐怖と攻撃は相互に原因となり結果となり、恐怖が攻撃という反応を引き出し、攻撃が恐怖をもたらす。それが無限に続いていく。「28日後・・・」の中に28日前に狂気が発生したのではなく、その28日前も、またその28日前も人間はずっと殺し合っていた、という趣旨のセリフがあったが、人間の本質を言い当てたものだろう。

_ 「ドラゴンヘッド」にも恐怖に攻撃で対抗しようとする人々は登場する。しかし、多くは恐怖を見ないようにする。「28日後・・・」と「ドラゴンヘッド」では災害の性格が違うから一概には言えないが、「ドラゴンヘッド」の描く日本人は世界の中では特異ではないか。日本人には自然災害に対するあきらめに似た畏敬の気持があるといわれるが、戦争のような人的な破壊に対しても同様な感情があるのではないか。たとえば、アメリカで一時大流行した核シェルターは日本では話題にもならなかった。

_ 「ドラゴンヘッド」は好きな作品だ。原作と比べて物足りないとする批評はあるが、よくあれだけの映像を作れたと思う。とにかく大災害の中でも人間のやさしさが残っているのがいい。日本的な甘さかもしれないが。


2016-10-18 何者

_ 朝井リュウ原作の就活映画。

_ 澁谷の映画館は満席でほとんどが就活前後の男女。老人はほぼ皆無。

_ 朝井の直木賞作品は読んでいないが彼らしい内容だった。私は就活というものを体験したたことがなかったので勉強になった。

_ 要するに就活は自分を商品として売る行為で、奴隷市場での人身売買に似ている。むしろ奴隷の場合は自分がモノであると割り切れるが就活は精神の領域まで侵されそうでより怖い。

_ 内定を得るまで、違う会社の採用担当者に「御社以外考えていません」などと言い続けて断られ続けるのは精神をむしばむ行為に違いない。

_ そのようにしてやっと入社した企業がブラックであった場合は悲劇だ。今電通が問題になっているが、電通はこの映画の製作委員会に入っている。自殺した女子社員については100時間を超える残業が問題視されているが、本人にとってもっときつかったのは徹夜で仕上げた仕事をぼろくそに言われたことではなかったか。

_ 日本の企業が新人を採用する際重要視するのは能力ではなくてその人の献身度だ。就活の過程で会社への献身を繰り返し表明させられやっと入った会社は、新入社員にとっては宗教教団のように絶対的な存在になる。そのような会社に自分を否定されることは世界から自分が否定されるのに等しい。

_ 能力があれば辞めればいいじゃないか、という人もいるだろうが、日本の社会が能力を正当に評価することが前提になる。この映画を観ていると日本の社会の閉塞感は就活から始まっていて、それが東芝などで露呈した批判できない企業体質を生み出しているように思う。


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