少数意見

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2004-10-23 スウィングガールズ

_ 「ウォーターボーイズ」が嫌いだったので、矢口監督作品は観るつもりはなかったのだが、評判が良かったので観てしまった。やはり好きになれなかった。

_ 何がいやかというと、ストーリーもギャグもみなわざとらしいのだ。はじめから笑わせようとか泣かせようとかの意図が見えていてしらける。監督自ら脚本を書いているが、独り善がりだと思う。たとえば次の話はおかしい。以下ネタバレ。

_ 鈴木友子たちのバンドは県の高校生対象の演奏コンクールに出場しようとビデオを添えて応募することになった。それを託された友子は、ビデオを郵送するのを忘れ、思い出した時は既に遅く先着順で出場校は決ってしまっていた。友子がそれを言い出せないでいる間、仲間はユニフォームを作り盛り上がっている。友子がその事実を打ち明けたのは会場へ向かう列車の中だった。

_ こんな話はないと思う。このような重大な事柄を隠しておくにはそれなりの理由が必要だ。単に気が弱いとかでは説明がつかない。友子は気が弱いどころか勝気で物怖じしない娘として性格設定されている。さらにバンドの仲間の誰も演奏会の主催者から返事が来たかを確認しないのもへんだ。

_ 結局この事件は、1校が雪のため来られず出場を断念し、その代わりに友子たちのバンドが出られることになり、めでたしめでたしの結末となった。この解決法もあまりにも安易だ。安手のテレビドラマのようである。

_ 黒澤明の名作のように何人かの脚本家が共同で執筆し、互いに相手を言い負かせてやろうという意気込みで取り組めばこのような欠点はなくなる。矢口監督は「アドレナリンドライブ」(99)の脚本・監督をやっており、この作品は好きなので、なぜあのような自然な話を作れないのかと思ってしまう。興行的に成功しなければという思いが、レベルの低い観客に合わせた作品を作らせてしまうのだろうか。


2023-10-23

_ 石井裕也監督作品。

_ 重度障害者施設、やまゆり園の事件を描いた作品。犯人の思想が披歴されていて、説得力がある。監督としては、そのような思想を否定するヒューマニズムを提示したかったのだろうが、成功はしていない。

_ 犯人には論理がある。それを否定するには、より鋭い論理で対抗するしかない。しかし、それは難しい。彼は、正論を述べているのだ。

_ 本作は、情を盾にして論理に対抗しようとする。それしかないだろう。ただし、情は揺れ動く。今回のハマスとイスラエルの件を見れば明らかだろう。どっちにも情はある。

_ 本作では、意思疎通ができない42歳の女性患者とその母親が出てくる。ほかの患者の親族はめったに見舞いにも来ないが、この母親は娘と心が通じている(と信じている)。もう一人、看護師の女性の長男がいる。心臓疾患のため、話もできないうちに3歳で死んだ。

_ 意思疎通ができない者を殺していいのなら、これらの二人はどうなんだ。親は、意思疎通ができなくてもかわいいのだ。殺される者の親の気持ちをどう考えているのか。と犯人に問う。

_ 観客はこの情による反撃に動かされるだろう。しかし、立ち止まって考えてみると、悲しむ親族のいない意思疎通ができない患者はどういう位置づけになるのか。悲しむ者がいる人といない人で命の価値は違うのか。

_ もっと飛躍すれば、飼い主と意思疎通ができるペットがいたら、その命はどこに位置するのだろうか。


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