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2007-11-29 恋空

_ いわゆるケータイ小説の映画化である。

_ この作品にケチをつけようと思えば簡単であるが、それはすでにネットの評を見れば出尽くしている。でも、これだけ小説が売れ映画が当たっているからには理由があるはずだ。

_ ご都合主義の筋や自分勝手な主人公は原作者の脳内の妄想と考えれば理解できる。ヤクザ映画が男のロマンであるとすれば、これは女の子のロマンなのだ。古典的なヤクザ映画(「仁義なき戦い」以前の)がリアリズムを排して様式美を追求したように、この映画は女の子が好む甘いセリフや裏切らない男や必ずクリスマスに降る雪が出てくる。

_ 少し前にNHKでケータイ小説の特集があり、何人かの作家のインタビューが放送された。「恋空」の作者ではないが。Chakoというヒット作の作者が言うには、書く動機は自分のそれまでの人生を総括して出直すためだった(急死した彼氏の墓参りにも行けない自分に対する反省)とのこと。書き終わったら全部削除しようと思っていたそうな。

_ 私はケータイ小説を読んだことがないので、あくまでも推測だが、従来の小説と違うのは読者をあまり意識していないところではないか。意識するにしても、自分の気持を理解してくれる同年代の女の子あたりで、口うるさい文芸評論家などは眼中にないだろう。だからケータイ小説の作家は他人のツッコミを気にすることなく自分の感情に溺れることが出来る。自分の体験がベースになっていても自由に脚色し、気恥ずかしいような粉飾をし、宝塚を見るように自分を見るのだ。

_ ケータ小説の読者もリアリズムなど求めておらず、自分(というか、こうあってほしい自分)と主人公を同化させ、現実と隔絶した夢の世界で感涙に咽ぶ。

_ 考えてみれば、小説なんて元々そんなものかもしれない。自分を別な世界に連れて行ってくれればそれで十分なのだ。小説の中に生きる目的や宇宙の真理が含まれている必要はない。しかし、そればっかりだと、もっと大きな感動を味わう能力が退化するだろうな。


2008-11-29 元厚生事務次官宅襲撃事件

_ 小泉毅容疑者は34年前に保健所に処分された愛犬チロの仇討ちが理由だと言っている。これは信じ難いという人が多い。

_ しかし犬の立場で考えたらどうだろう。私が理由無く殺される犬だったら小泉の行動は快挙であり涙なくして彼の決起の宣言は読めないだろう。小泉は犬の代理人だと考えると分かりやすい。

_ でも何故34年も待ったのだろう。それは多分彼の人間に対する憎悪と犬の仇討ちという観念が一つになるのにそれだけの時間を要したのだろう。

_ こんなことかもしれない。

_ 小泉は人間社会から阻害されている自分を感じ、それが社会に対する憎悪になり、人間全体を敵と見て攻撃を考える。ここまでは最近流行の無差別殺人犯と同じだ。違うのは、小泉は同姓の元首相と同じくロマンチストで自分の死を無駄な死とせず何かのための死にしたかった。そのためには大義が必要だった。大きな価値のために死ぬ、すなわち献身が彼の行動であり、その先の栄光ある死を担保する。

_ そこで34年間忘れることの無かったチロの死が彼の考える行動と結びつく。小泉はすでに人間社会を敵と見ていた。殺されたチロや同じ運命の多くの犬たちにとっても人間は敵である。しかし犬は人間に復讐することは出来ない。小泉は人類が犬と自分の共通の敵だと認識する。そして犬と違って自分には人間を攻撃する力がある。

_ そこまで来ると彼の心には一点の曇りもない。犬のための復讐という大義を達成するための行動あるのみだ。敵は人類だから別に厚生事務次官である必要も無かったが、打撃の効果を考えて相手を選ぶ。後はひたすら身体を鍛え、武器をそろえて機会を待つ。世俗的な代償を考えないという意味で、彼は純粋なテロリストであり殉教者だった。


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