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2002-08-19 トータル・フィアーズ

_ 米国ボルティモアで起きた原爆テロを機に米ロ間の全面核戦争が迫る。CIAの情報分析官ジャック・ライアンはこれがネオナチの犯行であることを察知し、戦争を阻止するために廃墟となったボルティモアを駆け回る。

_ 核を使ったテロの映画では、たいてい核爆発は事前に阻止される。シュワちゃんの映画でフロリダ沖の島で爆発するというのがあったが、大都会が破壊されるのは初めてではないか。爆風で車両が吹き飛ぶシーンなど迫力があった。出来れば、「アキラ」のように高層ビル街が崩壊する映像が見たかった。

_ 8月15日の朝日新聞の夕刊に品田雄吉氏の映画評が載っていた。氏はロシアとの開戦を米国高官が議論するシーンがリアルだと言うが、それに続けて次のように述べている。

_ 「ただ原爆描写は普通の爆弾テロとさほど変わらず、これがアメリカの原爆に対する一般的認識だとすれば、まことに腹立たしい」

_ ビル街が破壊されるところは予算の都合で撮れなかったのだろうが、他の描写からボルティモアの大半が消滅したことはわかり、その破壊力が普通の爆弾と違うことは明らかだ。では品田氏は何が違っているべきだと考えているのか。たぶん放射能による被害のことだろう。しかし放射能汚染は爆発直後に判明するものではなく、ライアンが核戦争阻止のために動く間は爆発による直接の被害しか映画は描けない。放射能の被害については、テロに関与した人間が被曝によって死に行く様を描写しており無関心なわけではない。それでも品田氏は「まことに腹立たしい」と言う。これは、アメリカ人は原爆については分からない、被爆国である日本人にしか分からない、という思い上がりではないか。

_ さらに品田氏は次のように言う。

_ 「それにしてもアメリカは、どうしてこれほど戦いたがるのだろう」

_ この映画はアメリカが一方的に核テロを受けたという話であり、別にアメリカが「戦いたがる」物語ではない。品田氏はこのような場合に攻撃された国はどうすればいいというのか。核の使用はいけませんと国際際世論に訴えるのか。

_ 映画は大統領と高官が核ミサイルのボタンを押すまでのシミュレーションを行っている場面から始まる。日本でも小泉首相は同じようなことをしているのだろうか。たとえば、北朝鮮との関係が緊迫する中で福岡市が原爆で消滅したら日本はどのように対応するのだろう。自然災害と違って守るだけでなく攻める必要があるから判断がより困難である。アメリカが好戦的だと言う前にわが国の備えにつき考えるべきではないか。


2006-08-19 切腹

_ 加藤紘一元自民党幹事長の実家と事務所に放火したとされる右翼団体幹部は現場で腹を切って倒れていた。腹からは腸がはみ出ていたとのこと。

_ 私が注目したのは、この男の65歳という年齢だった。三島由紀夫は英雄的な死を遂げるには年齢的な制約があると考えていて、その限界を49歳で自刃した西郷隆盛においていた。

_ この右翼は結局死ぬことはできなかったが、介錯なしに割腹のみで死ぬのは難しい。「一死大罪を謝し奉る」の遺書で有名な阿南陸相はポツダム宣言の最終受諾返電の直前の1945年8月14日の夜陸相官邸で腹を切り、介錯を拒み、翌15日朝絶命した。偶然動脈を切るなどしなければ腹を切っただけではなかなか死ねないのだ。

_ 介錯なしで一人で確実に死ぬには三島が「憂国」で書いたように割腹後首に刀を当てて頚動脈を切る必要がある。しかし、これも腹を深く切った場合には困難な作業になるだろう。

_ 切腹いう自殺の形態はたぶん日本に特有なもので、他の方法による自殺とは性質を異にしている。よく、死んで詫びるというが、首を吊ったり、電車に飛び込んだり、という安易な自殺は責任をとったことになるのか疑わしい。死は誰にでも訪れるもので、それを自ら早めたとしてもいかほどのことか。金を借りていた人が返済日前に払ってきた程度のことではないか。特に、昨今のイスラム自爆テロは、それで天国に行けると思ってやっているのであれば、責任とは無関係の自分勝手な死ではないか。

_ 切腹の特異な点は、死ぬという目的には不必要な要素が多く、効率的な方法ではないところにある。それは、多大な苦痛を伴うがその割には致命傷にならず、途中で止めようと思えば可能で、怪我をしただけで引き返すことができる。強い意志と体力がないと目的を達することができない。すなわち、切腹は単に死という結果を生ずる手段ではなく、一つの表現行為なのだ。それは単なる終止符ではなく、最後のメッセージなのだ。

_ 59歳になった私は、65歳で腹を切る意志とエネルギーを持った人がいるということに素直に驚いている。


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