_ 内館牧子の小説で定年退職したエリート社員のその後の人生を描く。
_ 私の周りでは、会社員をしていた人がどんどん定年になり、毎日が日曜日の生活になりつつある。それなりに楽しそうにしている人もいるが、自分がその立場になったらどのように生きるか苦労しそうだ。
_ 昔、司法試験に受かった後、司法研修所に行くまで半年間の何もしなくていい時期があった。最初は好きなことができると喜んでジムに行ったり空手の稽古に通ったりしていたが、なぜかひとつも楽しくなかった。制約がないことは苦痛だと思った。
_ 私の父は多趣味な人で、庭仕事、味噌や梅干つくり、料理などに精を出していた。仕事は生きがいではなく趣味に生きる人だった。それを私は軽蔑していたが、定年後を生きるには一番向いていたのではないか。
_ 小説「終わった人」の主人公は趣味に生きることはできないタイプの人間で、仕事の緊張感を求めて模索する。作者は、あとがきを読むと「品格のある衰退」を理想と考えているようだが主人公はそうは生きられない。もっとも「品格のある衰退」は小説にならない。
_ シルベスター・スタローンの「クリードチャンプを継ぐ男」も老年を描いた映画だ。ロッキー・バルボアとして一世を風靡した元ボクシングヘビー級世界チャンピオンの老後。食堂を経営していた彼は好敵手だったアポロ・クリードの息子のトレイナーになる。ストーリーはこれまでのロッキーシリーズをなぞったようなものであまり新味はないが、過去の作品に対するオマージュに満ちていて感動してしまう。スタローンと私はほぼ同じ年で(彼が一歳上)映画もリアルタイムで観ているのでロッキーの人生と自分のそれを重ね合わせることになる。
_ 病んだロッキーが、第一作に出てきたフィラデルフィア美術館前の長い階段をやっとの思で上りきり、振り返り街の景観を感慨深げに眺めるところはいい。