少数意見

最新 追記

2001-12-03 ハリー・ポッター

_ 今年劇場で見た映画のワースト。

_ 初日新宿ミラノ座で4:30分の回。40分ほど並んで入ったが最後まで前の2列は空いていた。

_ 原作を途中まで読んでいたので(最近我慢がなくなったので途中で投げ出すケースが多い)、映画は原作に忠実に作っていると思った。しかし、あまりのテンポの遅さに睡魔に襲われるが、これから面白くなると信じて見つづける。一向に面白くならないが、これは私が「千と千尋」に肩入れしていてライバル視されている作品に過度に批判的になっているのではないかと思い、無心に見ようと努める。ますますつまらなくなり、時計を見る。まだ1時間もある。隣の人がため息をつき、子供が退屈して歩き回る。これほどENDマークがうれしかった映画は久しぶりだ。

_ なにが悪かったかというと、まず物語をそのまま映画にすればいいと錯覚していたこと。それでいい映画が出来るのであれば、シナリオライターも監督もいらない。2時間30分あまりの作品だが、1時間縮めれば多少よくなるかも。

_ 原作についても言えるが、エリート意識が鼻持ちならない。魔法使いは普通の人間(モグル)より優れていて、その魔法使いのエリートを教育する学校(英国のパブリックスクールのようなもの?)の話で、ハリーはその中でも血統正しい超エリートだ。善と悪が完全に色分けされていて、善が圧勝する。悪はなぜ悪なのか説明されず、成敗されるだけの存在として描かれている。今のご時世によく合っているとも言える。英米でヒットするのはその意味では分かる。


2001-12-07 ハンコ

_ 新聞報道によると野村沙知代容疑者は他人を勝手に自分のファミリー企業の取締役にしていたとのことである。多分三文判を買ってきて登記したのであろう。これはもちろん違法だが、このようなことが簡単にできる制度に問題がないか考える必要がある。

_ 私は外国の会社から日本に子会社を作りたいという依頼を受けることがあるが、その場合よく取締役のハンコを作らせてくれとたのむ。半分くらいは同意してくれるが、ハンコとはそもそもなんであるか、と聞かれて困ることがある。私の提案は外国人の名前をカタカナで彫ったハンコをつくり私が外国の親会社のために管理し書面の同意があった場合のみ使用するというものである。しかし、サインのように本人しかつくれないマークと違い、誰でも作れるハンコが権利義務の原因となる文書に効力を持たせることが出来るという制度は説明しにくい。これは言わば違法行為を誘発する制度であり、多分日本の会社の取締役のかなりの部分が同意していない人か架空の人物だと思う。日本の社会によくある建前と本音の問題で、それが事件になると重大な違法行為であるかのように新聞はとりあげる。

_ ソープが売春でないとか、パチンコが賭博でないとか、この類のごまかしは多い。建前と本音という欺瞞を許せる社会はいつまで続くのであろうか。これから外国人弁護士が大量に日本に入ってきたら日本の社会も変わらざるを得ないであろう。


2001-12-10 5回目の千と千尋

_ 土曜日の4時の回。半分くらいの入りか。7月20日公開で5ヶ月続いているのですごいことだ。

_ 私は7月30日、8月14と23、10月11日の4回見ているが、ひとつの映画を5回見るのは初めてだ。そろそろ冷静に見られればと思ったが、案に反して、別の映画の予告編をやっているときから感動の予感で目が潤む始末。したがってこの映画を客観的に評価する立場にはない。

_ これまではストーリーの展開に注意が向き、緻密な構成(特にメインテーマと並行して進行するカオナシの物語の組み合わせの妙)に感心していたが、今回は映像をじっくり見ることが出来た。あらためて映画が動く絵であることを実感した。一つ一つのフレームが絵として完成していて、場面場面に対応したスピードで流れていく。瞬時に通り過ぎていく無数の絵を巻き戻して見たいと思う。DVDを買わなくては・・・。今一番見たい場面は、最初にハクが現れるところで、急に夕闇が迫り油屋の灯りが点灯するところ。ここのスピード感はスゴイ!観客はここで異界の時間流に入っていく。

_ ほかにも取り上げたい場面はいくつもあるが、個々の名場面の集積が名画になるわけではない。私がこの作品が特別だと思うのは、神の手を感じるからだ。三島由起夫は「英霊の声」を書いたとき母親に「手が勝手に動いてしまう」と言ったそうだが「千と千尋」にもこのような神秘的な力を感じてしまう。民族の集合的無意識が顕在化したというか、日本人が他文化を取り込みながらら醸成してきた文化がここに結実した感がある。これは「源氏物語」や「モナリザ」の誕生に比肩しうる芸術史上の大事件なのかもしれない。それをリアルタイムで体験できる幸せを満喫している。


2001-12-14 ビンラディン「証拠」ビデオテープ

_ 刑事訴訟はやったことがないが、30年前の知識で言うと、このようなテープが証拠として提出されたら、まずその成立が争われるだろう。つまり本当にオサマの一派が作ったものか、誰がどこで手に入れたものであるか、など。

_ 次にその内容が問題になる。テープに加工がなされていないか。テープに手が加えられていないとしても、音声がかえられていないか。あのボケた映像だと唇が読めないので、適当にアフレコができる。

_ 上記がクリアーされた場合でも、録音テープは伝聞証拠になるのでオサマに反対尋問の機会が与えられなければならない。それがないと証拠能力は否定される。

_ 最後にその証明力が問題となる。アメリカはこれでオサマがあの事件の首謀者であることが証明される思っているらしいが、そう簡単ではない。これは事件の後で撮影されたもので、誰でもあんなことは言える。内容に犯人しか知れない秘密の暴露はなく、あのような話は誰でも考えつく。オサマが本当にあのような会話をしたとしても、彼が法廷であれは冗談だったといったらそれまでだ。実際自分をビッグに見せるためにあの手の自慢話をすることは考えられる。ありうる話としては、テロはアルカイダ傘下の団体がやったが、オサマはそれを知らされていなかった。オサマはカッコウがつかないので、自分が全てコントロールしていたことを示すためにビデオを作り、自らの威信を保つために傘下の各組織にコピーを配った。そうでもなければ、わざわざビデオを作る理由がわからない。このような可能性がある限りオサマを有罪にはできない。アメリカが誇る推定無罪の法理だ。しかし、このテープが決定的な証拠だというのなら、戦争をはじめる前にアメリカが持っていたと称する「確実な証拠」とは何だったのか?

_ 「カプリコン1」という映画がある。ピーター・ハイマムズ監督・脚本、1978年の作品。NASAの人類初の有人火星着陸プログラムは実は芝居だった。アリゾナの砂漠にセットを組み、宇宙飛行士が演技しそれをテレビで全世界に中継した。それがばれそうになったとき証拠隠滅が図られ宇宙飛行士も消されそうになる、という話だったと思う。大昔見たので違っているかもしれないが。いずれにして今回のテープなど偽造するのは造作もないだろう。全部CGで作れるかもしれない。映像にだまされる人は多いので注意。


2001-12-17 マーシャル・ロー

_ 多分公開当時の映画評がよくなかったので見なかったのだろう。公開時の日本の状況からすると絵空事としか思えなかったのも無理はない。ニューヨークにおけるイスラム原理主義者による爆弾テロの話だが、現実はそれを越えてしまった。以下ネタバレあり。

_ 世界貿易センターがそびえるニューヨークと25人死者を出したバス自爆テロをニューヨーク始まって以来の大事件と報じるテレビのニュースは大昔の話のように思える。しかし、映画の伝えようとするメッセージは今でも新鮮だ。

_ テロの原因がイスラムの一派を途中まで支援しながら、気が変わって見捨て、見殺しにしたアメリカにあるとする見方は公平だ。最後の場面でデンゼル・ワシントン率いるFBIがアラブ人を拷問死させた罪で戒厳令司令官である将軍(ブルース・ウィリス)の逮捕に向かう。ここでデンゼル・ワシントンは、国のために仕方がなかったという将軍に対して、アメリカが守るべきは永年にわたって築き上げた制度であると言って対決する。

_ このセリフを今日「オサマ・ビンラディンの有罪は完全に証明された」と言っているアメリカ大統領に聞かせてやりたい。


2001-12-22 光の雨

_ 連合赤軍のリンチ殺人事件を映画製作現場とダブらせて描いたもので、秀作だった。製作者の意図としては、集団の中で弱い人間同士が虚勢をはり、殺られるまえに殺る、という図式で殺戮が繰り返されていった集団の狂気を、現代に通じるものとして描きたかったのであろう。私も見ているときは殺される側に共感していた。しかし、見終わってしばらくたつと、殺す側にも理由があるように思えてきた。

_ 私は弁護士になって2年目にアメリカに留学したが、留学中に日本の事務所の若い女性秘書が自殺した。私は彼女が古手の秘書たちにいじめられていたことを知っていたので、それが原因だと思った。日本からの情報でその確信を強めた私は、事務所にあてて便箋26枚の手紙を出した。そこで私は、仕事にかこつけたいじめとそれを許していた事務所の体質を糾弾した。その手紙は握りつぶされ、所員が読むことはなかった。

_ 職場でのいじめは必ずと言っていいほど仕事を理由になされ、それは「光の雨」における反革命的態度を理由として課される自己批判と似ている。30年前の私は、「仕事」がいじめる側の自己正当化のために使われていると思った。しかし、経営者になってみると、必ずしもそうではないと考えるようになった。

_ 「影武者」のメーキングのビデオの中に、黒澤明が顔を真っ赤にして唇を震わせながら怒鳴っているところがある。すごい迫力だった。完全主義者である黒澤が、いいかげんな仕事をする人間を許せない気持が今ではよくわかる。私は黒澤のように怒れないので、一人でファイルを床に叩きつけたりしている。私が古手の秘書のいじめとみたものも、そのような怒りだったのかもしれない。昨今の風潮は、いじめに厳しく、怠け者にやさしい社会を作り出しているいるように思える。

_ 権力と死闘を繰り返していた連合赤軍において、革命を純粋に信じる指導者が、やる気のない仲間に対して殺意を抱いたとしても不思議はない。それを肯定的に描く映画を誰か作らないものか。


2001-12-25 戦争

_ 不審船との銃撃戦の話題で盛り上がっている。ニュースキャスターも、ワイドショーのコメンテーターも、政治家も、異様に気分が高揚している。みんながやっている「戦争」というゲームにやっと参加できたからか。

_ 日本人は娼婦と軍人の役が似合うと言われるが、ギャルから人妻まで総娼婦化している元気のいい女性に比べて日本の男はサエナイ。企業戦士とか見栄を張っていた時代もあったが、所詮マガイモノでしかなかった。

_ その男たちがやっと本当の戦闘に出会えた。負傷した巡視船「あまみ」の乗組員は毅然としていたし、22時9分を「フタフタマルキュウ」と言う第十管区海上保安本部の職員もプロっぽく頼りになりそうだった。特攻隊が好きな首相にも、ブッシュの脇役的立場から脱しようという意欲がみられた。

_ ひょっとしたら、日本の経済危機に対する特効薬は「戦争」という劇薬なのかもしれない。


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