_ 「アメリカン・ヒーロー」以来のクリント・イーストウッドの作品。
_ ハドソン川に不時着したUSエアウェイズの旅客機の話。機長は当初英雄扱いされたが、事故調査委員会でラグアディア空港に引き返すことができたのではないかと疑問が呈せられた。法廷劇のように理屈で結論が導き出される。96分の短い上映時間だが充実している。
_ 前作もヒーローを描いたものだが、前回のスナイパーはカッコつきのヒーローだった。今回は昔の西部劇のヒーローのように素朴で裏表ない人間が主人公だ。機長のサリーは「硫黄島からの手紙」の栗林中将のように職務に忠実なプロとして描かれている。
_ サリーに過失がないことが証明されたあと、事故調査の公聴会で副操縦士が、あなたが機長だったら何か違うことをしたか、と訊かれる。彼は、自分だったら7月に着水したと思う、と答え笑いを誘う。実際の事故が起きたのは1月15日だった。
_ ニューヨークの冬は何回か体験してるが本当に寒い。海に落ちた人も何人かいたようだが、乗客・乗務員全員助かったのはやはり奇跡と言うべきだろう。
_ 朝井リュウ原作の就活映画。
_ 澁谷の映画館は満席でほとんどが就活前後の男女。老人はほぼ皆無。
_ 朝井の直木賞作品は読んでいないが彼らしい内容だった。私は就活というものを体験したたことがなかったので勉強になった。
_ 要するに就活は自分を商品として売る行為で、奴隷市場での人身売買に似ている。むしろ奴隷の場合は自分がモノであると割り切れるが就活は精神の領域まで侵されそうでより怖い。
_ 内定を得るまで、違う会社の採用担当者に「御社以外考えていません」などと言い続けて断られ続けるのは精神をむしばむ行為に違いない。
_ そのようにしてやっと入社した企業がブラックであった場合は悲劇だ。今電通が問題になっているが、電通はこの映画の製作委員会に入っている。自殺した女子社員については100時間を超える残業が問題視されているが、本人にとってもっときつかったのは徹夜で仕上げた仕事をぼろくそに言われたことではなかったか。
_ 日本の企業が新人を採用する際重要視するのは能力ではなくてその人の献身度だ。就活の過程で会社への献身を繰り返し表明させられやっと入った会社は、新入社員にとっては宗教教団のように絶対的な存在になる。そのような会社に自分を否定されることは世界から自分が否定されるのに等しい。
_ 能力があれば辞めればいいじゃないか、という人もいるだろうが、日本の社会が能力を正当に評価することが前提になる。この映画を観ていると日本の社会の閉塞感は就活から始まっていて、それが東芝などで露呈した批判できない企業体質を生み出しているように思う。