少数意見

最新 追記

2004-06-05 佐世保少女のマンガ的殺人

_ マンガ的というのは勿論悪い意味ではない。マンガは日本の誇る文化である。

_ さて、マンガは元々少年少女を対象として発達し、少年少女を主人公とする作品がたくさん作られた。純粋な少年少女が特別な能力を与えられて活躍するストーリーが多いが、やがて若さと純粋性が力を獲得する必要条件とされてくる。たとえば「新世紀エヴァンゲリオン」では選ばれた少年少女だけがエヴァを動かすことが出来る。彼らは人類の次を託された存在として描かれる。ニーチェの超人のように。

_ license to kill は007の特権だが、これは多分超人にも当てはまる。人間を超えた存在なら、人間の作った掟に縛られることはない。人間が動物を殺せるように、超人は人間を殺せるだろう。

_ 少年少女は、そう10才から15才ぐらいの間に、自分が天才ではないかと感じることがある。彼らの多くは後にそれが錯覚であったことに気づくが、少数の強烈な意志を持った者はそれを確かめる行動に出る。芸術を成すという方法もあるが、人を殺すというのもひとつの選択肢としてある。自由に人を殺せるなら、自分は人間界に属さない人間を超越した存在だ、という理屈である。

_ 佐世保の少女は多分、怒りや恨みのような人間的な感情とは関係なく、選ばれた者の存在証明を得るために殺したのではないか。

_ マンガ文化の先進国である日本にはこの少女の予備軍が大勢いるのではないか。酒鬼薔薇聖斗はその先駆けで、これからもそれに続く者が出てくるだろう。その中に本当の超人がいるのか、我々俗人には知る術もない。


2004-06-09 佐世保少女の謎

_ 何故白昼の学校が犯行現場になったのだろう。逃げる気がなかったのは分かるが、学習室に行く前に誰何されて止められることも考えられる。

_ 二人でカーテンを閉めて加害者が手で目隠しをしたという。それが本当ならそこまでは二人は協力していたのだ。でも何をしようとしていたのか。

_ 犯行後加害者は教室に戻った。そして教師を犯行現場に案内した。普通は身を隠したいと思うのではないか。


2004-06-19 レクイエム 前編

_ 2004年6月1日 12:15

_ サヤはナオに目配せをして教室を抜け出した。向かうは学習ルーム。

_ 普段使われていない学習ルームには人影はなかったが、給食が終れば誰かが入ってこないとも限らない。

_ 「あと何分?」サヤが聞いた。

_ 「3分」

_ 「この機会を逃すと100年待つんだよね」

_ 「うん。本にはそう書いてあった」

_ 厚いカーテンを締めると学習ルームは真っ暗になった。細い隙間からもれる光が金色の帯になった。

_ 二人は手早く床にチョークで五ぼう星を描き、呪文を唱えた。現れた悪魔は毛の長い小型犬のようで尻尾の代わりに3匹の蛇がついていた。

_ 「えっ!これが悪魔?」

_ 「これよ!私夢で見て絵に描いたんだ」ナオが言った。

_ 「これとはなんだ!」悪魔が怒った。

_ 「ごめんなさい」ナオが謝った。「あなたを夢で見たわ。会えてうれしい」

_ 「わしは忙しいんだから、早く済ませるように」

_ 「願いをかなえてくれるんでしょう?」とサヤ

_ 「その代わりに魂をもらうからね」

_ 「えっ!そんなの知らない!」二人は叫んだ。

_ 「知らない?悪魔がただで願いをかなえるとでも思ったのか。どんな本にも書いてあろうが」

_ 二人は顔を見合わせた。

_ 「タイム。今日はやめよう。二人で考えるから、今度にしましょう。また呼ぶから」とサヤ

_ 悪魔は怒った。

_ 「そんな勝手が許されると思うのか!二人とも魂をもらうぞ」

_ ナオは茫然としていたが、サヤはしたたかだった。

_ 「わかった。わかった。じゃあこうしましょう。まだ私たち小学生だから、少しはサービスしてくれてもいいでしょう。二人の願いが両方ともかなったら、一人の魂をあげるわ。それでどう」

_ じれた悪魔は怒鳴った。「もう忙しいからそれでいい。早く願いを言え」

_ 「作戦タイム!」と言ってサヤはナオを部屋の隅に連れていった。

_ 「分かるでしょう」

_ 「何が?」

_ 「だから、実現しそうもないことを言うのよ」

_ 「私はピュリッツァー賞がほしいわ」とサヤ。サヤはピュリッツァー賞がアメリカ人にしか与えられないことを知っていた。

_ ナオは芥川賞と言おうとして考えた。「やっぱ、ノーベル文学賞!」

_ 悪魔は不快感をあらわにした。「いいだろう。そっちがそれならこっちも条件がある。両方の願いがかなったとき二人はまたこの部屋に戻ってくるのだ。そして一人がもう一人の首を斬ってわしに捧げるのだ」


2004-06-26 レクイエム 後編

_ 25年後

_ サヤはアメリカ人ジャーナリストと結婚しアメリカ国籍を得た。そして自らもジャーナリストとして活躍しピュリッツァー賞を受賞した。それから程なく下馬評にも挙がっていなかったナオがノーベル文学賞を受賞した。

_ 2029年6月1日

_ サヤとナオはボストンの海の見えるレストランで食事をしていた。毎年6月1日に一緒に食事をするのが約束だった。どうしても都合がつかないときでも、その日には電話で話すかメールをするようにしていた。二人はずっと仲の良い友達だった。

_ 二人は黙って海を見ていた。色々話したいことはあったが、いつものように気楽に会話が弾まなかった。

_ 「願いがかなっちゃたネ」サヤがつぶやいた。

_ 「うそみたい・・・サヤのは当然だと思うけど・・・私は変だな」

_ 「そんなことないよ。みんながナオの実力を認めているわよ」

_ 「でも、早すぎるよ」

_ 「悪魔は来るのかな・・・」

_ 沈黙

_ 「夢だよ、あれは。二人で一緒の幻覚を見ていたんだ」とナオ

_ 「でも、もし本当だったら」

_ 「どっちかが死ぬんだ」

_ 「どっちかが殺すんだよ」

_ 「ごめんね、あんな約束をして・・・」

_ 「あのときは他に方法はなかったから仕方ないよ」

_ 沈黙

_ 「死ぬ方と殺す方、どっちがいい?」とサヤ

_ 「死ぬ方」

_ 「私も」

_ サヤはハーバード大学で夏季講座を持っていた。ナオはノーベル賞の受賞記念講演のためにボストンを訪れていた。

_ 「ナオが残る」とサヤが言った。「ナオは小説家なんだから私のことを書いてくれるでしょう。みんなが私のことを忘れないように」

_ 「いやだよ。あなたを殺して生きていくなんて無理。一緒に死ぬ」

_ 「うれしいけど、ナオが生き残るべきよ。生きてもっと素晴らしい作品を残して」

_ 急に日が翳り、あたりが暗くなった。

_ 2004年6月1日 12:25

_ そこは学習ルームだった。カーテンの隙間からさし込む光が金色の帯になった。ナオの手の中のカッターナイフがキラリと光った。


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