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2007-08-02 朝青龍騒動と診断書

_ 日本相撲協会は、ケガを理由に夏巡業の休場届を出しながらモンゴルでサッカーに興じていた朝青龍に対し2場所の出場停止と減給の処分を決めた。

_ 休場届の根拠となった診断書は「左ひじ靭帯損傷と疲労骨折で全治6週間」というもので相撲協会はそれを「正当」な診断書だと認めている。診断書が正しければ朝青龍が夏巡業に出ないことは問題に出来ない。つまり相撲協会の認識ではこれは仮病の話ではないのである。

_ 問題となっているのはサッカーの試合に出たことで、その経緯は夕刊フジによればつぎのようなものだった。

_ このイベントは中田英寿が提案しモンゴルサッカー協会が協力して実現したものでチャリティーの要素が強かった。観客はサッカー協会が招待した施設の子供たちで朝青龍は観戦だけの予定だった。彼は子供たちの声援に後押しされるように飛び入りで参加してしまった。サッカーをしていたのは中田以外は全くの素人だった。

_ さて、これをどう評価するか。少なくとも夏巡業をさぼりその間サッカーをして金を稼いでいたという話ではない。医師の診断が過激な運動を控えるようにというものだったら、好ましくない行動とは言えるかもしれない。しかし、横綱の品格を問題にするような話ではない。相撲で100キロ以上の巨漢がぶつかり合うことと比べたら素人相手のサッカーの草試合はものの数ではないとプロである朝青龍が判断したのかもしれない。

_ 本当は痛かったのに出たのならむしろ美談といえる。痛みをこらえて子供たちのためにプレイしたのだから。少なくともモンゴルの人たちはこのように考えるだろう。モンゴルの英雄として期待される行動だったと。

_ では、本当は仮病だったら誰が悪いのか。相撲協会は朝青龍の申告を信じて巡業不参加を認めたわけではない。あくまで専門家である医師の診断書を信頼したのだ。診断書は「疲労骨折」と言っている以上問診だけで書いたわけではないだろう。それがウソだったら書いた医師は処罰されるべきだ。朝青龍は専門家の判断に従っただけだ。

_ 刑事事件では医師の診断書が大きな意味を持つがどこまで信用できるか疑問だ。人間の運命を左右するかもしれない紙だから医師には責任を持ってもらいたい。


2007-08-10 朝青龍の記者会見

_ 今朝の「スッキリ!!」でテリー伊藤が、朝青龍に記者会見させることに反対していた。これは、他のコメンテイターの反発を買っていた。私はこれまでワイドショーはみんなで一人を非難するいじめであると言ってきたのでテリーが孤軍奮闘しているのを応援したくなった。何も私が同調できる意見だったからということではなく、大勢に抗して意見を述べていたのがうれしかったのだ。

_ テリーもあの場では十分説明できなっかたので私なりに補足する。

_ テリーが前提にしていたのは朝青龍が正常な精神状態にないということだ。これは二人の精神科医がそのように言っているので素人が否定できることではない。では、そのような精神状態の人に記者会見させることに何の意味があるか。素直に思ったことを言えばいいではないかと考える人もいるだろう。しかし、そのとき言ったことに朝青龍は責任をもてないだろう。でも、相撲協会を批判するなり問題発言をすればマスコミはそれをネタに新たな騒動を起こすだろう。それで朝青龍はますます傷つくことになる。

_ では、素直に謝ればいいではないかという人もいるだろう。しかし、精神状態が不安定な人に謝らせてどんな意味があるのか。謝らせるために記者会見に引っ張り出すのは精神的なリンチでしかない。


2007-08-20 朝青龍と小池百合子

_ 二人の問題の共通項は手続きだ。

_ 朝青龍の場合、相撲協会は朝青龍の弁解を聞くことなく処分を下した。本人の言い分を聞けば多分私が8月2日に書いたようなことを言っただろう。それを考慮すれば、処分は今回のように厳しいものにはならず、本人が軽率だったと謝るだけで済んだかもしれない。何れにしても、一方的に処分を言い渡されるよりも本人の衝撃は少なかっただろう。

_ 小池百合子防衛大臣については、塩崎官房長官は「次官人事は正副4人の官房長官で構成する人事検討会議に諮る必要がある」という見解であったという。それが本当であれば、その会議を開いて決定すればよかったはずだ。それをせずに安部総理大臣の判断になったのは手続きが不明確だったからではないか。森元総理は小池大臣には武士のたしなみがないと非難しているそうだが、そのような情緒的な問題ではなく、決定権者と決定の手続きさえはっきりしていれば混乱するはずが無い。

_ 日本の集団の中で古いしきたりー情に支配された密室での決定方式ーが一番強く存在するのは相撲と政治の世界ではないか。ことを荒立てないで、集団の空気で物事が決定されていくのは楽である。しかし、それは同質な構成員と集団による決定の拘束力があってはじめて可能になる。そんな社会は日本にはもうない。アメリカ型の due process が必要だ。


2007-08-21 朝青龍と解離性障害

_ 三人目の精神科医のつけた病名は解離性障害だった。びっくりした。

_ 私は、この日記で何回か「解離性同一性障害」について書いてきた(2004年9月17日、2005年11月14日、2006年7月18日、2007年7月14日)。解離性同一性障害はいわゆる多重人格で解離性障害の一つの類型である。朝青龍は解離性健忘と離人症性障害に該当するようだが、同一性障害を発症することは無いのであろうか。

_ 私が関心を持ってきた事件では、普段おだやかな人が突然凶悪な事件を起こしている。そこには人格の連続性がない。一人の人間の中に複数の人格が潜在していて強いストレスによりその一つが発現するのではないか。そのとき出てくるのは、普段抑圧されている攻撃的な人格が多いようだ。

_ もし朝青龍の中に、殺人鬼の人格があって、その人格が現在の強いストレスで発現することは考えられないのか。そんなことがあったら、ジュラシックパークのティラノザウルス級の恐怖だ。

_ 黒沢清監督の「地獄の警備員」という映画がある。1992年の作品で、ある商社に警備員として雇われた大男が元相撲取りで、兄弟子と愛人を惨殺したにもかかわらず精神病で無罪になった過去がある。その男が無差別殺人を開始する。ロッカーに隠れた女子社員をロッカーごとつぶして殺すところがすごかった。傑作ホラーだ。

_ 筒井康隆の短編で「走る取的」というのがある。酒場で飲んでいた二人のサラリーマン(一人は空手二段)が取的(下っ端の相撲取り)と目があったことから、執拗に追いかけられる。追い詰められた二人は駅のトイレのわきで惨殺される。相撲が最強の格闘技と信じられていた、曙がK-1で負ける前の話。でも、サッカーの映像を見ていると、朝青龍だったらどこまでも追いかけてきそうだ。この小説も傑作。

_ 何れにしても、朝青龍に同一性障害が発症する可能性が少しでもあるなら、早く手を打ったほうがいい。さもないと、とんでもない惨劇が始まる。


2007-08-25 多重人格

_ 最近多重人格について続けて書いているので調べてみた。と言ってもネットを検索した程度だが。

_ 解離性同一性障害というのが正式な名前。幼児期の虐待、特に性的虐待、が原因となることが多い。複数の人格は、年齢、性別、性格、趣味、経歴、能力が違うのが通常で、国籍が違って外国語を流暢に話す人格が出現することもあるらしい。食事の好みが異なるだけでなく食物アレルギーが特定の人格にだけ存在したりする。

_ 主人格と交代人格に分けられるが、何をもって主人格というのかよく分からない。交代人格が出現するときは主人格は意識が無く、突然時間が経過して買った覚えの無い品が家にあったりする。交代人格が存在することを知らない主人格もいるが、人格間で交流がある場合もある。

_ 多重人格者間に付き合いがある場合、双方の交代人格が入れ替わったという話がある。大林監督の「転校生」のシチュエーションを複雑にした形か。

_ 多重人格の問題は、考えていくと哲学的な問題になっていく。性的同一性障害の場合、女であると意識している人が男の身体を持っている場合、その女であるという意識を尊重するのが最近の傾向である。では、少女の身体に中年男の人格が入っていた場合、どう扱えばいいのだろう。身体に合わせて人格を変えたり消したりするのが正しいのか。人格が交換できるとなると、もっと複雑な問題になる。自意識が移動することになる。

_ 多重人格が存在することについては医学上は完全に認められているようだ。しかし、裁判で多重人格が問題になったことはほとんど無い。宮崎勤事件の精神鑑定書で多重人格への言及があったが採用されなかった。私は最近の異常な事件の多くが多重人格者の犯行ではないかと思っている。しかし、それを認めた場合、多くの人格のうちの一つが犯した犯罪をどうやって処罰するのか。多重人格で無罪になるのだったら皆多重人格を装うことになる。今の医学では、偽装と真性を区別できないだろう。

_ マスコミも、多重人格のアプローチをとれば説明できる犯罪があってもその方向で追求しない。タブーなのだろう。多重人格を認めていくと今の法体系は崩壊してしまう。刑事だけでなく民事も。別人格がした契約だと言って責任を負わなくてよくなったら契約の意味がなくなる。

_ 我々は今の文明社会は科学に基づいた正しい世界だと信じている。しかし、その確信は魔女狩りをしていた中世の人々の確信とそれほど違わないのかもしれない。


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