_ アカデミー賞国際長編映画賞等多数の賞を受賞。
_ アウシュビッツ強制収容所の隣の屋敷に住む所長ルドルフ・ヘス一家の平和な生活を描いた作品。着眼点は面白いが、それ以上に優れた映画だとは思わない。意識高い系のリベラルが評価する類の映画だ。
_ ヘスの妻は、その屋敷が子供を育てるのに最適な環境だと言い転勤を拒否する。草花や森に囲まれ近くには川もある。自然の描写が美しかった。塀の向こう側の雑音と絶えず煙突から立ち上る黒い煙が不快ではあるが。
_ 自然を愛する者が同時に虐殺者であることが矛盾であると考える人はいるだろう。しかし、ナチスは、心身共に健全なアーリア人種の国家を建設しようとし、その対極にあるユダヤ人を絶滅しようとしたので整合性はある。
_ そのように考えていたのがヒトラーとその崇拝者だけだったら、その連中を異常とすればいいのだが、そうでもないようだ。映画のヘス邸に集まるドイツ人はユダヤ人に対する嫌悪をあらわにする。たぶん多くのドイツ人が同様な感情を抱いていたのではないか。それがドイツ敗戦でなかったことにはならない。
_ また、反ユダヤ主義はヒトラーに始まるものではなく、2000年の歴史がある。古くはキリスト教との対立で今はイスラムとの戦争になった。
_ イスラエルは弱みを見せれば、民族が消滅すると考えていて、それは正しい。それを防ぐには侵略者を皆殺しにするしかない。だから戦争は終わらないだろう。
_ J.D.Salingerの小説。先日NHKで「完全なる問題作」として紹介していた。
_ ビートルズのジョン・レノンを射殺した犯人が殺人現場で読んでいて、殺人の理由はすべてこの本に書かれていると言ったとのこと。また、レーガン大統領を暗殺しようとした犯人がホテルに読み古したこの小説を残していたとか。
_ 評判だけは知っていたが初めて読んだ。反道徳的との理由で発禁処分になったそうだが、今の感覚ではそれほどの衝撃はない。話し言葉で、Goddamとかfor Chrissakeとかの表現がたくさん出てくるのが、問題視されたのかも。
_ 主人公は、高校をドロップアウトした16歳で、ほとんどの他人、先生、大人、同級生をphonyとして軽蔑している。インチキ、偽物ということだ。
_ そんな彼が唯一認めるのが妹、Phoebeだ。インチキな世界で妹と彼のみが本物で、疎外されている。絶望的な雰囲気の小説は最後はPhoebeの純粋さに救われる。しかし、作者は無理してハッピーエンドにしたのかもしれない。流れから行くと二人が心中してもおかしくない。
_ 上記ふたりの犯罪者がこの小説に見たものは何なんだろう。Phonyな世界を正すためには、その世界を代表する人間を殺す必要があるということか。
_ ちなみに、主人公がライ麦畑で捕まえるのは、崖から落ちそうになっている子供だ。それが、科学者や弁護士なんかになるよりよっぽど価値がある行動だと。
_ 前作、マッドマックス;怒りのデスロードのフュリオサの前日譚。
_ フュリオサ役の女優は目力があってよかった。しかし、シャーリーズ・セロンに比べるとひ弱で、プロレスラーのような体格の男どもに対抗するのは苦しい。
_ 映像は素晴らしく、アクションも車に興味がない者でも興奮するレベルだ。
_ まあ、しかし何が残るかといえば、あまり何もない。それも映画の楽しみではある。