少数意見

最新 追記

2002-10-01 千年女優

_ 昨日渋谷で観たが、すばらしい作品だった。観客は少なくもったいない。

_ 三島由起夫の「豊穣の海」と似ていると思った。「豊穣の海」は(すごーく簡単に言うと)純粋な情熱に突き動かされて20才に満たない人生を終え、そして転生する若者たちの80年に及ぶ物語だ。「千年女優」は70才になる往年の大女優、藤原千代子、のインタビューとして構成されている。しかし、映像は千代子の出演作に応じて王朝時代から未来までの1000年を映し出す。千代子が少女時代にめぐり会った革命家の青年との淡い初恋と別離は異なった時代を舞台に何回も再現される。それは、ひとつの純粋な情熱が転生により異なった個体で違う形で発現されるのに似ている。

_ 人生の経験をそれなりに重ねてきた者としては、千代子のさまざまな時代を背景にした恋が自らの過去の思い出とオーバーラップする。ノスタルジーとナルチシズムに酔っている私に千代子の最後のセリフが聞こえてくる。

_ 「でも、私はあの人を追いかける自分がすきなんだもん」

_ 監督!それを言っちゃお終いよ!


2002-10-03 千年女優ー補足

_ 一昨日書いたものの最後の部分が分かりにくかったので一言。

_ 行動する人は、その求める対象との関係で自分がより小さく無に近くなるほど美しくなるのだ。千代子は初恋の彼のために死ねると思ったとき一番美しく輝く。でも彼女が輝いている自分の美しさに気づいてしまうと、その美しさは一瞬にして失われる。手のひらの上の雪の結晶のように。


2002-10-07 拉致とランボー

_ 「ランボー・怒りの脱出」を久しぶりに観た。

_ 1985年、ベトナム戦争が終わって久しいのにベトナムにはまだ多くの米兵捕虜がいるという設定。捕虜の家族や世論に押されて米国政府は捕虜の調査に着手する。選ばれたのは前作で大暴れし採石場で強制労働させられているランボーだ。

_ ランボーは捕虜の存否を確認するだけという命令に背いて、捕虜1名を救出して集合場所に向かった。しかし、ランボーを脱出させるはずだったヘリは捕虜を見て引き返す。捕虜はいてはならなかったのだ。

_ この作戦は捕虜の不存在を確認するためのものだったが、手違いでランボーが向かった収容所には数日前から捕虜が戻っていた。米国政府に裏切られたランボーは鬼神のごとくたった一人の戦争を闘い抜く。

_ この作品では二つの立場が相克する。ベトナムとの再度の対決を避けるため捕虜の存在を否定しようとする作戦本部と米国のために戦った同志を救出しようとするランボー。ランボーは、無事捕虜を救出したあとで国を憎んでいるかと聞かれたのに対して、I can die for it と言い、さらに、

_ We want our country to love us as much as we love it. That's what I want.

_ と続ける。

_ 拉致問題が起きてからこの作品をもう一度観たいと思っていた。記憶が変容していたのか最後のランボーの演説はもっと長かったように思う。自分たちが命をかけたアメリカの価値に言及したように思ったが、それは今度観たDVDにはなかった。

_ 政治は四捨五入だから、この作品のように切り捨てられる人間は必ずいるだろう。それが長い目で見て国の利益になるということもあるだろう。しかし、そのような我慢が続くとやがて国民はランボーのような鬼神を欲するようになる。

_ 小泉首相は国交正常化を優先するためにある我慢を国民に強いた。それが半世紀余眠っていた休火山に火をつけることになるのかもしれない。


2002-10-08 サイン

_ シャマラン監督の作品は「シックス・センス」ではうまくだまされ、「アンブレイカブル」では少し無理があると思い、「サイン」にはどんな仕掛けがあるかと期待して観たが、仕掛けらしいものがないままに終わってしまった。その意味では失敗作だ。

_ でも、仕掛けに期待しなければ、結構楽しめるかもしれない。笑わせる場面もあり、妻の死のエピソードもよかった。

_ シャマラン監督はコメディーや人情もので勝負したほうがいい。


2002-10-18 「宣戦布告」と北朝鮮

_ 「宣戦布告」を観たが不可解な映画だった。「北東人民共和国」の侵略に対して自衛隊が出動して日本国内で侵略者を撃退することがその国に対する宣戦布告になると言っているようだが、あまりにも非常識ではないか。

_ 宣戦布告といえば、今回の北朝鮮の核兵器開発の自認は「大量破壊兵器の開発」自体をアメリカに対する侵略とみなすブッシュ政権の立場からすれば、アメリカに対する宣戦布告になるのではないか。

_ 日本の場合、核兵器開発に拉致問題がからみ複雑になる。昨今の、涙また涙の報道は北朝鮮の思う壺だ。SFではよく異星人に拉致された人が帰ってくるが、実は外観は同じだが異星人が入れ替わっている、という類の話がある。今回の「一時帰国」は北朝鮮の立場からすれば訪日でありその目的は外交である。そして彼らの北朝鮮への「帰国」は日本からすると人質を取り返されたということになる。北朝鮮のねらいは、人質に対する日本国民の共感、同情を最大限に高め尚且つ人質は北朝鮮の意のままに動くように維持すると言うことであろう。日本人の彼らに対する感情移入が強まれば強まるだけ人質としての価値は高まる。

_ アメリカがイラクの次に北朝鮮を攻撃しようとする際、人質は楯になる。そして、最後の切り札として登場するのが横田めぐみさんの娘ではないか。彼女がテレビに出て攻撃を止めるように涙で訴えたら日本の世論は反米に動くのではないか。映画好きの金正日は、そのときのために自ら彼女に演技指導をしているかもしれない。


2002-10-22 DOLLS

_ ネタバレあり。

_ 北野監督の作品は全部観ていて、その殆どを劇場で観た。だから北野ファンと言えるのかもしれないが、最近の作品は嫌いで、映画祭の外国人審査員におもねった感じがいやだった。今回も文楽をテーマにするというので、またあれか、と思ったが観にいった。

_ 社長の娘との結婚式場で松本は婚約者であった女性が自殺を図り精神に異常をきたして入院していることを友人から聞かされる。彼は会場を抜け出して病院に向かい、結婚式は流れた。ここで私はなんと無責任なと思った。しかし、この映画は責任などというものを超えた世界を描いていることにやがて私は気づかされた。

_ 松本は彼女を連れ出して放浪の旅にでる。美しい自然を背景に赤い紐でつながれた二人はひたすらどこへという当てもなく歩きつづける。

_ ここである評者は「ディスカバー・ジャパン以外のなにものでもいない」という。「HANABI」の自然描写については私もそう思った。しかし、「DOLLS」の映像の美しさには必然性があるように感じた。二人が歩いている世界はすでに現実ではなく、狂気の描く世界で、やがて死が全てを終わらせることを美が予告しているのだ。

_ 文楽の背景となった世界と違い、障害のない現代において本当の恋は描けないのではないかと私は考えていた。それは障害の存在によって極限まで高められたエネルギーが狂気のような恋に結実するという物語が作れないということだ。でも恋が狂気であり、それが美しいのであれば、観客をその最も美しいところへ途中を省略して連れていってもいいのではないか。北野監督はそう考えたのではないか。

_ この作品の三つのエピソードは常識に縛られている人間には理解できないだろう。たとえば深田恭子が扮する人気歌手のおっかけ男の話。彼は歌手が事故で怪我をして引退したとき、彼女の美しい姿を永遠に脳裏にとどめるため自らの目をつぶす。目が見えないと言う理由で他のファンには許されない歌手との再会を彼は果たす。彼が歌手に手を引かれてバラの花園を散策する場面はあまりにも美しい。この、いわゆる絵葉書のような美しさは、花園が現実でないことを示している。ここでは非現実的な美が必要だったのだ。

_ 三つのエピソードの恋に北野監督は理由をつけない。なぜ恋をしたかは本来あまり意味のないことなのだ。理由はなんであれ、狂気のレベルに達した恋をカメラは正面から捉えていく。そして美しすぎる自然の描写が、恋のはげしさを伝える。これは映画にしか出来ないことかもしれない。


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