_ 何れも食をテーマにした映画。圧倒的に「南極料理人」の料理の方が美味そうに見えた。
_ どちらも大事件がおきるわけではなく、日常の小さな出来事を描いている。しかし、その日常が全く違う。「南極」は零下70度の、風邪のウィルスまで絶滅してしまう世界だ。そのような極限の状況で仕事をする男たちにとって食事は我々が考えている以上に重要だ。
_ 「南極」に登場した料理のなかでも、持って行ったラーメンがなくなったとき、乾水(炭酸ナトリウム入りの水)を作るところから始めたラーメンがやたら美味しそうだった。多分私が観た映画の中の料理で一二を争う。もう一つ挙げるとすれば「刑務所の中」に出てきた、特別な日に出されるアジフライか。
_ 「南極」と「刑務所」は腹がへったからちょっと外食するとかコンビニに行くとか出来ないところが似ている。そういう状況での食事は想像を絶する価値を持つのだろう。
_ グルメ本やテレビの番組で料理の味を比較して優劣を付けたりしているが、味は相対的なもので、食事の環境や本人の身体の状況で大きく変わる。最近やっとそれが分かったので、一回だけ食べてまずいと思ったものには断定的な評価をしないようにしている。もっとも、そのような料理をもう一回食べに行くかは分からないが。
_ 楽天が負ければ日ハムの日本シリーズ出場が決まり、野村監督の楽天における最終戦になってしまう一戦だった。
_ 8回裏、楽天の2点ビハインド、二死2,3塁、投手交代で岩隈の名前が告げられた。それまで楽天側の動向には反応が鈍かった日ハムファンに埋められたスタンドがどよめいた。ドラマのクライマックスが演出された。
_ スレッジに対する岩隈の第一投は大きく外角高めに外れた。8回投げて、一日おいてのリリーフだった。
_ 次の投球はストライクゾーンに入る速球で、打った瞬間に分かる豪快なホームランになった。
_ 大歓声の中、カメラはベンチの野村監督を捉えた。野村は笑っていた。次の映像は、駆け寄る捕手と話す岩隈だった。岩隈も笑っていた。
_ 二人の笑顔には共通点があり、すがすがしさを感じた。
_ 野村も岩隈も無理があることは判っていたのだろう。わずかに在った希望が3ランホームランの前に消え、運命が確定する。
_ そのときの気持ちは安堵に近いのではないか。未練に引導を渡すホームランだった。これが四球やエラーで崩れたのだったら、爽快感はなかっただろう。
_ 人生には色々な局面での最後があるが、うまく気持ちの区切りをつけることは難しい。
_ 野村の胸中には、岩隈で負ければあきらめがつく、という思いがあったのではないか。勝つための作戦としては無理があった。それでも岩隈を選んだのは、心中に近い感情かもしれない。
_ 自分にとっての最後の試合で最後のマウンドに立つ投手を野村は指名した。その役割を岩隈は立派に果たしたと思う。