_ 楽天が負ければ日ハムの日本シリーズ出場が決まり、野村監督の楽天における最終戦になってしまう一戦だった。
_ 8回裏、楽天の2点ビハインド、二死2,3塁、投手交代で岩隈の名前が告げられた。それまで楽天側の動向には反応が鈍かった日ハムファンに埋められたスタンドがどよめいた。ドラマのクライマックスが演出された。
_ スレッジに対する岩隈の第一投は大きく外角高めに外れた。8回投げて、一日おいてのリリーフだった。
_ 次の投球はストライクゾーンに入る速球で、打った瞬間に分かる豪快なホームランになった。
_ 大歓声の中、カメラはベンチの野村監督を捉えた。野村は笑っていた。次の映像は、駆け寄る捕手と話す岩隈だった。岩隈も笑っていた。
_ 二人の笑顔には共通点があり、すがすがしさを感じた。
_ 野村も岩隈も無理があることは判っていたのだろう。わずかに在った希望が3ランホームランの前に消え、運命が確定する。
_ そのときの気持ちは安堵に近いのではないか。未練に引導を渡すホームランだった。これが四球やエラーで崩れたのだったら、爽快感はなかっただろう。
_ 人生には色々な局面での最後があるが、うまく気持ちの区切りをつけることは難しい。
_ 野村の胸中には、岩隈で負ければあきらめがつく、という思いがあったのではないか。勝つための作戦としては無理があった。それでも岩隈を選んだのは、心中に近い感情かもしれない。
_ 自分にとっての最後の試合で最後のマウンドに立つ投手を野村は指名した。その役割を岩隈は立派に果たしたと思う。