_ 最初は「ターミネーター」や「ET」の亜流かなと思いながら観ていたが、やがて、この映画はハリウッドの大作をなぞりながら全く別の世界を描いていることが分かってきた。それは多分ジャパ二メーションに特有の、無機質な未来社会の精密な描写と土俗的な情念が激しく絡み合う、なつかしい世界だ。私はこの分野に詳しくないが、「風の谷のナウシカ」と同質のものを感じた。
_ 山﨑貴監督はVFX出身の38才とのことだが、アニメ文化の中で育った世代である。昨日のテレビ朝日で「アニメ・特撮ヒーロー&ヒロインベスト100」をやっていたが、ここ30年くらいの間に日本はこの種のサブカルチャーで独自の世界を築き上げてきた。いまその文化がCGの力を借りて実写の世界にも進出し始めたのかもしれない。
_ 金城武と鈴木杏は「探偵物語」の松田優作と薬師丸ひろ子のように息が合っていた。
_ 唯一欠点があるとすれば、敵役の岸谷五郎率いる中国マフィアのチャチサで、こんな連中が地球を滅亡に導いたというのは説得力がない。アメリカ映画だったら、CIAとかNSAとか、国家の表または裏の機関もしくはテロリスト集団が出てくるところだが、日本にはいずれもそぐわない。結局、日本で一番こわいのは中国人マフィアということになるのか。
_ 去年の9月11日、WTCから多数の人が飛び降りたと言う。生存者がいたという話はない。ひとりで、また2人、3人で手をつないで飛んだ人は、窓枠から足が離れるとき何を思ったのだろう。確実な死か。いや、何人かは、もしかしたら殆どの人が飛翔を念じたのではないか。
_ 誰でも飛ぶ夢をみる。最初は屋根をかするように浮上し、やがて力強くヒマラヤ杉を越え、雲やその上の星ぼしに向かって上昇する。そんな夢を誰でも見たはずだ。
_ WTCでは何百人もの人々が奇跡を信じて飛び、誰も助からなかった。彼らの最も切なる願いは天に届かなかったのか。そもそも奇跡は存在しないのか。
_ ジョディー・フォスター主演の「コンタクト」という映画がある。地球外知的生命体(ET)とのコンタクトを描いた作品だ。ETの設計図に従って恒星べガ星域への移動が可能な装置が建設される。巨大なドーナツ状の二つの物体が回転する中をジョディーを乗せた球体の乗り物が落下し、ドーナツの中心あたりで星間移動のワームホールに入るはずだった。だが、球体はただ海中に落下しただけだった。星間飛行は失敗したかのように見えた。しかし、ジョディーは球体が着水するまでの数秒間に何光年もの旅をし、少女の時に死に別れた父(の姿を借りた異星人)と再会し、そして地球に帰還していたのだ。
_ WTCから飛び降りた人々が地面に着くまでの数十秒間について我々は何も知らない。その間に奇跡を見た人がいるかもしれない。神を見た人がいるかもしれない。数十秒間に悟りを開いた人がいるかもしれない。いずれにせよその数十秒間の体験は誰にも語られることはない。
_ いくら思いを致しても、そこで何があったかは私には分からない。しかし、奇跡がなかったとは誰にも言えない。飛翔の夢は実現したかもしれない。そう信じたい。
_ 結局出版されなかったが、長編小説らしきものを書いてから他人の小説を読む意欲が薄れてきた。流行の小説を手に取るのだが、50ページも読まないうちにいやになり放り投げてしまう。これまで看過していたような細部に引っかかってしまうのだ。
_ 幸田真音の「有利子」という経済小説を読み始めた。主人公の財前有利子は証券会社の個人客向け投資アドバイザーである。その有利子のところに2500万円のキャッシュを持ち込み1週間で倍にしてくれと三条という老人がやってくる。それは無理だという有利子に対して三条は「見掛け倒しもいいところだ」と非難する。キレた有利子は「三条様」というのをやめて突然「じいさん」と呼ぶ。
_ いくらなんでも客に対して「じいさん」はないだろうと私は思う。ため口を否定するわけではないけど、ため口が可愛いのは下の者が上の者に向かって言う場合で、有利子は投資のプロであり相手は金持かもしれないが素人の老人である。テレビ番組で老人に「おじいさん」と呼びかけるのが失礼なことだと言われる昨今、有利子の態度は非礼以外のなにものでもない。作者はこれが面白いと思っているのかもしれないが、そのような感覚の持ち主が書く小説はロクなものではない、と思い読むのをやめた。
_ 昔だったらこんな小説でも読み続けていたかもしれないが、細部をおろそかにする人間には立派な小説は書けないと言う認識に至ったので、無駄な時間を使わなくなってよかったと思っている。しかし最近の小説はこの類の欠陥品が多い。
_ 今、すばらしい作品だと思って読んでいるのが倉橋由美子の「よもつひらさか往還」で、言葉の重みが違う。ふと、倉橋由美子と川上弘美の文体が似ているように感じたが、文芸評論などでこの二人を論じたものなどあるだろうか。
_ 恵比寿ガーデンプレイスにあるルイ王朝様式のシャトーレストラン。印象としては西麻布にあるジョージ王朝様式のザ・ジョージアン・クラブと似ている。建築関係の人には区別がつくのだろうが、私には同じように見える。
_ タクシーでウェスティン・ホテルの前まで行ったが入り口がすぐには分からなかった。結局一周してしまった。
_ 火曜日の夜2階のメインダイニングで食事をした。席は右奥の壁際で、カップルの場合女性が壁を背にするようになる。と言うことは、男性は食事の間、華やかな宮殿のようなダイニングルームを見ることなく壁を見つづけることになる。従って、食事の相手が誰であるかが重要になる。
_ 料理は日向清人氏のお勧めのDEGUSTATIONをとった。各お皿のポーションが少なかったので正解だった。味は思ったほど濃くなく、盛り付けなど和食の影響があるのではないかと感じた。
_ 赤のグラスワインをとったが、渋めであまり好きではなかった。グラスワインは赤白各1種類しかないようで銘柄の説明もなかった。アッピアなどは5,6種類から選べるので、タイユバンにも少し考えてほしい。
_ まあ、悪くはないけどしょっちゅう行く気にはなれないなーー。
_ マスコミは相変わらず感情的な報道に終始しているが、もっと考えるべきことがあるんじゃあないか。
_ たとえば、なぜ死亡年月日を北朝鮮は開示したのか。生存者、死亡者を特定するだけで、日本政府は満足したのではないか。いつ、となぜについては調査中でも通ったのではないか。年月日を開示した結果、処刑云々の話になり、北朝鮮はより詳しい情報を提供せざるを得なくなっている。
_ これが金正日の指図によるものだったら、彼は我々の理解を超えた人間である。なにを狙っているのか分からない。彼が知らないうちに出てしまったのなら、それはミスか反対勢力の仕業か。後者であるとすれば、誰か。国交正常化を望まない軍部か。