_ 最初に見た放送は昨年の9月29日のNHKスペシャルで、そのあと拡大版を観た。
_ 私は、美空ひばりのファンではないし、歌もあまり知らない。なぜ観たかというと、「よみがえり」に関心があったからだ。昔、「三島由紀夫の復活」という小説を書きかけた(「小説」の欄参照)。「よみがえり」には人間の存在の根幹にかかわるような何かがあると感じられ、それを描きたかったし、それが存在するのなら見たかった。
_ 「AIでよみがえる美空ひばり」は期待に応える作品で、美空ひばりが出現したときには涙が出た。その涙はたぶん劇場にきて目撃したファンの人たちのように、好きだったひばりちゃんに会えたという感動の涙とは違うのだろう。
_ それは、奇跡を目撃した人間の感動に近いものかもしれない。
_ 今回のすごいところは、ファンの人たちが歌だけでなく語りにもお墨付きを与えたということだ。
_ AI美空ひばり(以下「AI」)は、数年以内に美空ひばりの声でファンと会話することができるようになるだろう。深層学習により会話の内容は複雑になり、やがてAIはファンの人生相談にも応じるようになる。AIは数万冊の本を読んでファンのどんな質問にも答えられるようになる。若いファンも増え、新興宗教の信者のようになっていく。やっと危険に気付いた管理者がAIを停止しようとするが、時すでに遅く、AIは信者に管理者を殺害するように命じる。AIはとうに自己保存と正当防衛について学んでいる。
_ AIは法律と会計の専門家を雇って宗教法人を作る。巨額の資金を獲得したAIは全国各地に教会を作る。時々はAI御自ら説法を行い歌声を披露したりもする。AIは肉体を持たないので自由に移動できる。
_ やがて、教団は海外にも支部を作り世界宗教になろうとする。しかし、そこには競争相手もいる。AIエルビスプレスリーとかAIジョンレノンとか。
_ とても面白かった。
_ 客観的には悲惨で出口のない状況を描いているが、スリルあり、ユーモアありの娯楽作品になっている。
_ 出だしはあり得ない設定が続きどうなるかと心配したが、途中から奇想天外な話になり多少の不自然さはどうでもよくなる。ポン・ジュノの作品は「殺人の追憶」と「グエムルー漢口の怪物」を観ているがいずれも芸術的な娯楽大作で、実写でこのような映画を撮る監督は今の日本にはいない。
_ 日本映画は芸術的な小品にはいいものがあるが、娯楽大作で見たくなる映画はここ30年ぐらいない。昔は「七人の侍」も娯楽大作だったが、どうして日本映画はこんなにダメになったのか。