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2002-01-04 幸福の代償 [長年日記]

_ 21世紀最初の年に我々は多くの人々が究極の悪と考える二つの犯罪をみた。ひとつは9月11日のWTCに対するテロであり、もうひとつは大阪教育大学付属池田小学校の児童殺傷事件である。いずれの場合にも犠牲者に非はなく、犯罪は加害者の一方的意志により行われた。しかし、加害者に動機がないわけではなく、前者においてはWTCが米国の繁栄の象徴であり、後者においては付属池田小学校がエリート養成校と考えられていたことが標的になった理由なのだろう。

_ WTCで働いていた人々は貧しい労働者も多く、必ずしもイスラム原理主義者に恨まれるような階級ではなかった。しかし、大きな歴史の流れの中では、あの場所は世界の貧者の憎悪が向けられる所だったのだろう。

_ 付属池田小学校の児童も必ずしも富裕階級の出ではなかったろうし、そこにいることで将来が約束されていた訳でもなかった。しかし、人生の敗者であると思い込んでいた宅間守は自分には失われた可能性・夢を持つ児童に殺意を抱いたのだろう。

_ 国際的なダイナミックスの中で発生したテロと宅間守という特異な個人が引き起こした犯罪は、マクロ及びミクロのいずれの局面においても今世紀が困難なものになることを予感させる。競争心があり、その結果常に不満を持つことが他の動物と人類を区別するひとつの特徴であるという人がいるが(さらに言えば、人類の種の中でもクロマニヨン人のほうがネアンデルタール人より攻撃性が強かったので勝ち残ったという)、これまではそのエネルギーが文明の発展に寄与してきたようにみえる。

_ 国家間の争いにおいても、また個人の間においても、これまで敵は明瞭で、弁証法的な歴史の展開により、専制的、階級的な社会からより民主的で平等な社会に発展してきたと言える。しかし、今日の社会は複雑である。アメリカを批判することは簡単だが、アメリカは従来の帝国主義国家と同列に論じられないし、ナチスドイツやソ連が勝者であった場合と比べてみれば我々はより良い世界に生きていると思う。日本においても、新しい階級が生まれつつあると言う人はいるが、一昔前のように働かないで食っていける階級はない。

_ このような敵が誰か分からない社会では、不満は幸福そうな人々に向けられる。幸不幸は相対的なものであるから、幸福な人々はその存在自体が不幸な人々を作り出している。人間はみな平等であるという理念と、マスメディアの発達によって誰の目にも明らかになった幸不幸の格差はこの敵意を増幅させる。

_ 生物のある種を他の種に優越させている遺伝子が環境に適合しなくなれば、その優越的な立場は失われ、衰退していく。人類をこれまで勝利に導いてきた競争心(攻撃性)を規定する遺伝子が人類という種にとり有害になりつつあるのかもしれない。


2002-01-15 アンダーワールド [長年日記]

_ 先日の新聞のコラムに、不良債権処理が進まないのは不良債権を通じて官僚や経済界にアンダーワールドの勢力が深く入り込んでいるからだと書いてあった。これは常識なのかもしれないが、その方面にうといのでビックリした。これで日本経済が崩壊し、世界恐慌が起きたら、その原因はヤクザだということになる。

_ 私が仕事を通じてそちらの社会の人間と会ったのは多分2回だけで、ひとつはマイケル・ジャクソンの日本公演がらみだった。

_ 1985年の春頃、映画「乱」の関係者の紹介ということである会社が契約書を翻訳してくれといってきた。その契約書がマイケル・ジャクソンの日本公演に関するもので、簡単なものだった。契約書を持ってきた男は、筋肉質の長身、眼光鋭く、動きに無駄がなかった。私が普段相手するくたびれたサラリーマンとは雰囲気が違っていた。話してみると頭も切れ、魅力的な人物だった。

_ 仕事はすぐ終わったが請求した翻訳料は払われず、そのうち山口組の幹部がFBIのおとり捜査にひっかかりハワイで捕まったというニュースが流れた。山口組系の竹中組相談役竹中正と織田組組長織田譲二はマイケル・ジャクソン公演の手数料と称してとられた55万ドルを取り戻そうとしてハワイに乗り込んだところ、麻薬取引と銃器密輸の嫌疑にて逮捕されたとのこと。そもそもマイケル・ジャクソン日本公演自体がFBIがでっち上げた架空のものだった。

_ 結局私はFBIの作った契約書を翻訳したようで、お金は払ってもらえなかった。契約書を持ってきたあの男は多分山口組の人だったのだろう。前述のおとり捜査はホノルル連邦裁判所でさばかれ、陪審評決により竹中・織田両氏は無罪になった。この顛末は元山口組顧問弁護士の山之内幸夫氏の「山口組太平洋捕物帳」(徳間書店)にくわしい。

_ さて、もうひとつのアンダーワールドとの遭遇については別の機会に。


2002-01-19 スターリングラード他 [長年日記]

_ ネタバレあり。

_ 「スターリングラード」はジャン=ジャック・アノー監督作品にしてはボケたものだった。アメリカ、イギリス、ドイツ等の合作だが印象としては典型的なハリウッド映画。ソ連兵もドイツ兵も英語を話し、それだけでうそっぽくなる。ストーリーは二人の狙撃手の戦いに三角関係がからみ最後はご都合主義のハッピーエンド。一昔前の西部劇にあるようなお話でスターリングラードに舞台をとる必要はなかった。史実に基づいているそうだが、第二次世界大戦で狙撃手がそれほど重要な役割を演じたこと自体信じ難い。スターリングラードの特殊性だったのだろうか。それだったらその背景が描けていないように思う。

_ この映画だけの問題ではないが、狙撃を扱った映画には必ず照準器でねらいを定める場面がある。そこで獲物は望遠レンズに捉えられ、十字の印しの真中にきてそこで引き金が引かれる。しかし、昔ちょっとエアーライフルをやった経験からすると的はレンズの中で上下左右に動き回り、決して静止しない。これは人間が銃を構えている以上銃が固定されないためで、優秀な狙撃手はその動きを最小限にして命中させるのだと思う。映画では的は静止しておりあれでは誰にでも命中させられるようにみえる。

_ 「スパイゲーム」は荒唐無稽な話だった。最後に米軍が中国の刑務所に捕らえられているブラピを救い出すが、現実にあんなことをしたら米中間の全面戦争になる。最近のアメリカ映画には脳天気なものが多いが心配である。

_ 「ムーランルージュ」は楽しい作品だった。映像がきれいで音楽もよかった。でも私がニコール。キッドマンだったらあんな頼りない作家ではなく金持ちの男爵のほうを選ぶのにと思った。

_ 「アメリ」はギャグについていけなかった。たけしの「HANABI」についても同様に感じたが、無理に笑いを取ろうという姿勢にしらけてしまう。

_ 「サテリコン」を久しぶりに見た。フェリーニの1969年の作品で傑作。ローマの文化が繁栄の極に達した頃の物語。美しい男が沢山出てきて、ホモ映画のようにもみえる。でも多分本当のホモはあのような一般受けするような美青年は好まないだろうから違うか。三島由起夫はこの映画をみたのだろうか。


2002-01-25 山咲千里さんのこと [長年日記]

_ 彼女と会ったのは確か1985年のことで、その当時私は映画「乱」の仕事でよく黒澤明監督のショーファー付きの車で移動していた。よく覚えていないが、多分車の中でそのショーファーと二人だけになったときだと思う、彼が「山咲千里という女優が黒澤プロに移籍してきたが、前に所属していたプロダクションともめているので相談に乗ってくれないか」と言った。彼女は、NHKの朝の連続テレビ小説「鮎のうた」の主人公を演じて評判になった新人女優だとのこと。私は芸能界にはうとく、彼女の名前すら知らなかったが、引き受けることにした。

_ ほどなく彼女の母親から電話があり、事務所で会い、簡単な契約書を作り仕事は終わった。もめているというほどの問題があったわけではなかった。無事契約が調印された後、千里さんの母親が、お礼に娘と食事をしませんか、と言った。こんな申し出は初めてだったのでビックリしたが、喜んでお受けした。

_ 場所は六本木のステーキハウスで、母親は千里さんを紹介すると消えてしまった。用意されたコーナーはすだれを下ろすと個室のようになってしまうスペースで、芸能人はこういうところで食事をするのかと感心した。私は、若く美しい女優と二人で食事をするという、めったにない経験をすることになった。

_ 私は当時38才、結婚5年目の貧乏弁護士で、デパートのバーゲンで買ったスーツがみすぼらしかったので、華やかな千里さんを前に気後れしていた。千里さんは当時22,3才、慶應大学経済学部の学生だった。知性と美貌を併せ持った女優で、今で言うと菊川怜か。

_ 千里さんは、自分の名前(本名は山﨑千里)の由来などの話をしていたが、私は上がっていたのでほとんど覚えていない。恋人がいるという話になり、彼女は「毎日電話しているんですよ」と言っていた。ちょっと残念に思った。

_ 食事が終わって千里さんは、電話番号を教えてくれる、と言った。ひとつの番号を言った後に、最近自分の部屋に電話をひいたと言い、もうひとつの番号を教えてくれた。「前の番号は居間の電話なので母が出ることが多いのですけど、こちらにかけてくれれば私が直接出ます。」

_ 私は今でもこの二つの番号を書いたアドレス帳を持っている。でも、結局一回も電話しなかった。今から思うとなぜかけなかったのかと悔やまれるが、その当時は用もないのに電話をする勇気はなかった。

_ 黄色く変色したアドレス帳の山﨑という名前の横に書かれた二つの電話番号を見ながら、彼女はなぜ二番目の電話番号を教えてくれたのだろうと考えるが、わからない。


2002-01-26 女の涙 [長年日記]

_ 田中真紀子さんの涙が話題になっている。小泉首相は「涙は女性の最大の武器だっていうからね。泣かれるともう男は太刀打ちできないでしょう」と言ったそうな。

_ 昔私はある女性にラブレターのような手紙を書いたことがある。その女性の関心を惹こうと苦心して書いた手紙の最後に、「これから先君はいろいろな困難に出会うかもしれませんが、僕は必ず君を助けてあげます」と記した。彼女は手紙を読んで、「感動して泣いてしまいました」と言い、さらに「私を泣かせてしまったのだから責任をとってくださいね」と言いニコット笑った。そう、涙は責任を生じさせるのだ。

_ 契約は申し込みと承諾が合致すると成立し、「助けてあげます」という申し込みに「お願いします」という返事があれば契約はできるようにみえる。しかし、どこの国の法律でもこれだけでは拘束力のある契約ができたとは言えないだろう。でも、これに涙が加わると話は違ってくる。法律上はともかく、男と女のルールブックによれば女の涙によって男の言葉は縛られ撤回できなくなり責任が生じる。美女(なぜかここは美女でないとサマにならないのだ)を感動させて泣かせると、男は中世ヨーロッパの騎士よろしく剣をとって姫を守るためドラゴンとも戦わなければならないのだ。

_ この場合の女の涙には、英米法に言う捺印(seal)と同じような効果があるように思う。伝統的法理によれば英米法では契約が成立するためには約因(consideration)があるか捺印証書(deed)によるかしなければならない。前者は上記の話でいえば女性が助けてもらう対価として100万円払ったとしたら契約が成立するということである。後者はこのような対価がなくても捺印を押す(というか付着するというか)ことによって契約を成立させることが出来る。

_ 真紀子さんの話に戻るが、彼女の涙は違う目的で使われている。真紀子さんの敵はその主張をバックアップするものとして複数の証人と会議の議事録が出せる。それに対して真紀子さんは自分が聞いたことを自ら証言するしかない。これが裁判だったら勝ち目はないだろう。そこで彼女は自分の証言を補強するために涙を使うことにした。主張の真実性を担保するものとして(別な言葉で言えば自分が真実を述べているということを相手に信じてもらえる方法として)、男の世界には武士の切腹とヤクザの指詰めがある。女の涙には同様な効果がある(もっとも男との関係でしか使えないが)。このあと敵側がさらに証拠を出せと詰め寄ったら、男らしくない(女々しい?)という批判をうけるだろう。真紀子さんに対しても政治の場で女の武器を使うのは良くないという批判はあるだろうが、政治家である前に女である、と言ってしまえばそれまでだ。加藤紘一の涙は彼の政治家としての弱さを示してマイナスだったが、真紀子さんの涙は彼女のしたたかさを印象づけマイナスにはならない。でもしばらくはやめたほうがいいが。


2002-01-29 真紀子さん [長年日記]

_ 今日のスポーツ紙の一面に真紀子さんの怖い顔が載っている。

_ 普通こんな状態になると男の世界では(政治家の世界でなくても)政治決着が図られる。でも真紀子さんは女だからそうはいかない。「わたしはどうなってもいいから、あんたを滅ぼしてやる」というのが本音だから難しい。この場合の敵が、鈴木宗男などという小物ではなく、外務官僚、福田官房長官、さらには小泉首相を含めた男の世界そのものだから怖い。男の一人としては・・・女にとっては小気味いいのだろうが。

_ ちなみに昔狭いエレベーターの中で真紀子さんと一緒になったことがある。彼女が大臣になる前で、私は赤坂の月世界ビルの5階にあるエスカイヤクラブに行こうとしていた。彼女は同じビルの4階の海鮮料理に行くために長身の若い男(秘書か)と一緒にエレベーターに乗ってきた。そのときの会話。

_ 「ご飯食べてきたら?」

_ 「いいです。大丈夫です。」

_ 「本当?お腹すいちゃうでしょうー。」

_ このときの真紀子さんはやさしそうだった。


2002-01-31 政治 [長年日記]

_ 真紀子さんは一番いい場面で首になった。大臣になってから初めていい仕事をした時だったから。これが例の指輪事件の時だったらただのワガママな女で終わっていただろう。

_ 今回の事件は「言った」、「言わない」の問題にすり替えられているが、勿論本当に問題なのは鈴木宗男の外務省の決定に対する関与だ。私は政治がらみの案件はほとんど扱ったことがないが、その例外をひとつ。

_ もう10年以上前になるが、私はあるアメリカの食品会社の仕事をしていた。その会社が再販価格維持という独禁法違反の取引をして公取の捜査が入った。違法行為があったのは明らかで、どのような処分になるかが問題となった。私のいた法律事務所は独禁法の専門家の意見も聞いて、公取は勧告を出すだろうとアドバイスした。これは過去の例から見ると避けられないことだった。勧告というのは、違法行為が認定されたときになされる処分で、アメリカの会社は日本はともかく他の国々での商売に悪影響があるので、勧告は絶対に困ると言った。我々は出来る限りのことはしたので後は公取の判断を待つしかないと言った。

_ その会社は、アメリカの日系人弁護士を使っていて、その弁護士は政治がらみの事件が得意な大物だった。彼の指示で我々は赤坂にある代議士の事務所に行った。その代議士は将来の首相と目された人で、公取に影響力があるとのことだった。事務所に行くと代議士の秘書と称する人物がいて、代議士は公取の委員長と親しい関係だから任せろと言った。彼はせっかちな男でこちらの説明を半分も聞かないで、「分かった、分かった」と言い、電話をかけた。相手は公取の委員長のようで、親しそうに話していた。電話が終わると、その秘書は、「私の言うとおりにすれば問題はない」と言った。

_ しばらくして、公取の処分があった。怖れていた勧告ではなく警告だった。警告は違法行為の十分な証拠がなかったときになされる処分で我々の依頼者にとって満足のいくものだった。我々は、なぜこのような結果になったのか分からず当惑した。公取という役所は裁判所のような機能をもつ準司法機関なので政治家の力が及ぶのは意外だった。

_ さて、これを読んで何かが抜けているのではないか、と思う方がおられよう。そう、金。残念ながらと言うか、それはわからない。常識でいえば、あったでしょう。とにかく、法律家というのは無力だな、と感じた一件だった。


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