_ 真紀子さんは一番いい場面で首になった。大臣になってから初めていい仕事をした時だったから。これが例の指輪事件の時だったらただのワガママな女で終わっていただろう。
_ 今回の事件は「言った」、「言わない」の問題にすり替えられているが、勿論本当に問題なのは鈴木宗男の外務省の決定に対する関与だ。私は政治がらみの案件はほとんど扱ったことがないが、その例外をひとつ。
_ もう10年以上前になるが、私はあるアメリカの食品会社の仕事をしていた。その会社が再販価格維持という独禁法違反の取引をして公取の捜査が入った。違法行為があったのは明らかで、どのような処分になるかが問題となった。私のいた法律事務所は独禁法の専門家の意見も聞いて、公取は勧告を出すだろうとアドバイスした。これは過去の例から見ると避けられないことだった。勧告というのは、違法行為が認定されたときになされる処分で、アメリカの会社は日本はともかく他の国々での商売に悪影響があるので、勧告は絶対に困ると言った。我々は出来る限りのことはしたので後は公取の判断を待つしかないと言った。
_ その会社は、アメリカの日系人弁護士を使っていて、その弁護士は政治がらみの事件が得意な大物だった。彼の指示で我々は赤坂にある代議士の事務所に行った。その代議士は将来の首相と目された人で、公取に影響力があるとのことだった。事務所に行くと代議士の秘書と称する人物がいて、代議士は公取の委員長と親しい関係だから任せろと言った。彼はせっかちな男でこちらの説明を半分も聞かないで、「分かった、分かった」と言い、電話をかけた。相手は公取の委員長のようで、親しそうに話していた。電話が終わると、その秘書は、「私の言うとおりにすれば問題はない」と言った。
_ しばらくして、公取の処分があった。怖れていた勧告ではなく警告だった。警告は違法行為の十分な証拠がなかったときになされる処分で我々の依頼者にとって満足のいくものだった。我々は、なぜこのような結果になったのか分からず当惑した。公取という役所は裁判所のような機能をもつ準司法機関なので政治家の力が及ぶのは意外だった。
_ さて、これを読んで何かが抜けているのではないか、と思う方がおられよう。そう、金。残念ながらと言うか、それはわからない。常識でいえば、あったでしょう。とにかく、法律家というのは無力だな、と感じた一件だった。