_ 小泉批判の嵐の中で考えたのだが、あそこで田中真紀子を切ったのは小泉の恩情ではないか。
_ 真紀子が大臣の器でないことは彼女のファンですら認めるところで、これまでも失脚に値するミスを繰り返してきた。その彼女がはじめて賞賛するに足る仕事をした。しかし、問題をあれ以上追及することは真紀子には無理だと小泉は思った。
_ 更迭の直前、紛争の焦点は「鈴木宗男」の名前が会話の中で出たか否かという「言った言わない論争」に移っていた。ここでは真紀子は劣勢で、追及されれば彼女のウソが判明したと思う。そこで小泉は考えた。真紀子が嘘つきの汚名を着せられて強制退場させられるより、悲劇のヒロインとして消えていく花道を作ってあげよう。そのためには、小泉が悪者にならなければならない。
_ 結果は小泉の思ったとおりになった。真紀子はヒロインになり、自分は悪者になった。しかし、世論の過剰な反応は小泉にとっても予想外だった。だれも小泉の恩情に気づいてくれない。
_ 事実はこれほど単純ではないと思うが、恩情が小泉の判断を狂わせた可能性はある。彼が非情な人だったら、あのような自分にとって最悪のタイミングを選ぶわけはない。小泉はヒトラーやスターリンにはなれなかった。それでよかったのだろう。