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2002-01-26 女の涙

_ 田中真紀子さんの涙が話題になっている。小泉首相は「涙は女性の最大の武器だっていうからね。泣かれるともう男は太刀打ちできないでしょう」と言ったそうな。

_ 昔私はある女性にラブレターのような手紙を書いたことがある。その女性の関心を惹こうと苦心して書いた手紙の最後に、「これから先君はいろいろな困難に出会うかもしれませんが、僕は必ず君を助けてあげます」と記した。彼女は手紙を読んで、「感動して泣いてしまいました」と言い、さらに「私を泣かせてしまったのだから責任をとってくださいね」と言いニコット笑った。そう、涙は責任を生じさせるのだ。

_ 契約は申し込みと承諾が合致すると成立し、「助けてあげます」という申し込みに「お願いします」という返事があれば契約はできるようにみえる。しかし、どこの国の法律でもこれだけでは拘束力のある契約ができたとは言えないだろう。でも、これに涙が加わると話は違ってくる。法律上はともかく、男と女のルールブックによれば女の涙によって男の言葉は縛られ撤回できなくなり責任が生じる。美女(なぜかここは美女でないとサマにならないのだ)を感動させて泣かせると、男は中世ヨーロッパの騎士よろしく剣をとって姫を守るためドラゴンとも戦わなければならないのだ。

_ この場合の女の涙には、英米法に言う捺印(seal)と同じような効果があるように思う。伝統的法理によれば英米法では契約が成立するためには約因(consideration)があるか捺印証書(deed)によるかしなければならない。前者は上記の話でいえば女性が助けてもらう対価として100万円払ったとしたら契約が成立するということである。後者はこのような対価がなくても捺印を押す(というか付着するというか)ことによって契約を成立させることが出来る。

_ 真紀子さんの話に戻るが、彼女の涙は違う目的で使われている。真紀子さんの敵はその主張をバックアップするものとして複数の証人と会議の議事録が出せる。それに対して真紀子さんは自分が聞いたことを自ら証言するしかない。これが裁判だったら勝ち目はないだろう。そこで彼女は自分の証言を補強するために涙を使うことにした。主張の真実性を担保するものとして(別な言葉で言えば自分が真実を述べているということを相手に信じてもらえる方法として)、男の世界には武士の切腹とヤクザの指詰めがある。女の涙には同様な効果がある(もっとも男との関係でしか使えないが)。このあと敵側がさらに証拠を出せと詰め寄ったら、男らしくない(女々しい?)という批判をうけるだろう。真紀子さんに対しても政治の場で女の武器を使うのは良くないという批判はあるだろうが、政治家である前に女である、と言ってしまえばそれまでだ。加藤紘一の涙は彼の政治家としての弱さを示してマイナスだったが、真紀子さんの涙は彼女のしたたかさを印象づけマイナスにはならない。でもしばらくはやめたほうがいいが。


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