_ アメリカ人に時代劇が撮れるわけがないという先入観をもって観はじめた。初めのうちは日本人がインディアンのように描かれるのを不快に感じた。
_ やがてトム・クルーズ演ずるオールグレンが日本にのめり込んでいき面白くなってきた。渡辺謙が知性と野性を兼ね備えた勝元を好演していた。
_ 後半、勝元を討つために大砲やギャトリングガンで武装した政府軍の大部隊が押し寄せる。そのときギリシャのテルモピレーの戦いが話題に上る。紀元前480年ペルシャの大軍がギリシャを攻撃した際スパルタ戦士200人がテルモピレーの天険でくいとめたという話だ。
_ 最後の合戦の前に勝元がオールグレンに尋ねる。「それで、ギリシャの戦いの結末はどうなったのか?」
_ 「全員戦死したよ」とオールグレンは答え、二人は顔を見合わせてニヤリと笑う。ここで涙がでて止まらなくなる。
_ 二人は「玉砕」を確認したのだ。従来のアメリカの思想は「生還の可能性のない作戦は悪だ」というものではなかったか。そんなセリフを何かの映画で聞いた記憶がある(「パールハーバー」だったか)。
_ 観ているときには気づかなかったが、この映画はまるごと三島由紀夫だと思った。三島は昭和43年の「反革命宣言」で次のように述べている。
_ 「われわれは、護るべき日本の文化・歴史・伝統の保護者であり、最終の代表者であり、且つその精華であることを以って任ずる」
_ 「自分自らを歴史の化身とし、歴史の精華をここに具現し、伝統の美的形式を体現し、自らを最後の者とした行動原理こそ、神風特攻隊の行動原理であり、特攻隊員は「後につづく者あるを信ず」という遺書をのこした」
_ 「有効性は問題ではない」
_ これは正に勝元の行動原理ではないか。侍の文化を護るという行為がそれ自体護られるべき文化の精華になるのである。
_ さらに、勝元のモデルは西郷隆盛だという話があるが、勝元の乱は三島が「奔馬」の中で詳しく物語った神風連の乱と酷似している。神風連の乱は明治9年の廃刀令に反発した熊本の志士が起こしたもので、かれらは火器を使わず太刀、槍、薙刀のみで10倍の人数の討伐軍に立ち向かった。
_ 思うに西洋から見れば三島由紀夫こそが the last samurai ではないか。
_ 前にも書いたように三島思想は現在のイスラムの自爆テロにつながっている。この映画の勝元は、武士の文化の最も純粋なものを命をかけて護ろうとしており、これは正に原理主義の思想である。そして三島は日本を代表する原理主義者である。
_ 日本では封印されている三島思想はアメリカの原理主義にも影響を与えているのだろうか。