_ きれい過ぎるのがわずらわしく感じるようになる映画だった。映画はストーリー、映像、音楽の三つの要素がバランスを保つことが大切だが、この作品は映像、特に色彩が際立っていて、最初はそれに目を奪われるがやがて過剰な音楽のようにうるさくなる。
_ ストーリーがもっとしっかりしていれば色彩にあれほど押されなかっただろう。三人の刺客が秦王を狙う話だが、その内二人が秦の三千人の衛兵を正攻法で撃破するというエピソードがある。超能力者でもなく単に剣の達人という設定なのでこれを信じろというのは無理だ。またこのような作戦が可能ならなぜ三人が犠牲になって無名(ジェット・リー)に暗殺の使命を託するとういような話になるのだ。四人でかかればよほど成功の確率は高くなるではないか。無名があのような作戦を取らない限り暗殺は不可能だとする納得のいく説明がないので、秦王と無名のあの大げさな会見場面が生きてこない。無名の十歩必殺の技を披露する(結局見せなかったが)舞台として無理に作られた場面としか考えられない。
_ 砂塵、風の中で舞う旗印、矢ぶすまなど黒澤映画を思わせるところが多かった。とくに秦王の城から長い階段を降り退去する無名とそれに道を開ける衛兵の構図は、「乱」で狂った秀虎が炎上する三の城から出てくる場面とそっくりだ。
_ 私はジェット・リーのファンだが、ワイヤーアクションでは彼のよさは出ない。ワイヤーアクションは凡庸な肉体をも超人に見せてしまい、ジェット・リーのような本物の出る幕はない。
_ いろいろ文句はつけたが、印象に残る場面も多々あり、決して駄作ではない。次作ではもう少し脚本に金と時間をかけたらいいと思う。