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2016-09-23 怒り

_ 公開捜査されている殺人事件の容疑者に似た三人の男とそれらの男を取り巻く人々の話。

_ 「アモーレス・ペロス」や「バベル」のように一つの事件や物を介して関連する物語が並行して進行する構図だ。しかしイニャリトウのようにはうまくいっていない。

_ 殺人犯が犯行現場の壁に血文字で「怒」と書き、この作品のテーマが怒りであることが分かる。しかし各物語において何が怒りで何に向けられているか判然としない。

_ 広瀬すずの場合には、その怒りが具体的で激しいものであることは明らかだ。しかし加害者を沖縄の米兵にしたことで物語は陳腐で広がりを欠くことになった。

_ 妻夫木聡と綾野剛の話は、怒りというより自責の念に近い。

_ 一番わからないのは、殺人犯の心理で、怒りの対象が明確でない。第三者の話として、犯人は日雇いの仕事をキャンセルされた暑い日、道に迷い住宅街のある家の門前で休んでいたところ、その家の家人から麦茶を供されたが、それを侮辱と感じて犯行に及んだと。

_ この心理はわかりにくい。小説では説明できているのかもしれないが、映像からは複雑な心の綾まではわからない。刑事裁判で「自己中心的で身勝手な理由」と判決書に記されるところだ。

_ 小説であれば「異邦人」のように、太陽がまぶしかったから、という犯行理由もある。

_ 「格差」を理由とするのであれば、そのような「身勝手な」無差別殺人事件は枚挙にいとまがない。しかし、それを映画で説得力あるように描くのは簡単ではない。


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