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2001-11-24 50年後の世界

_ 並外れた体力を持つ中学3年Aは総番長として地域の中学に君臨していた。ライバルと目された隣町の番長が失脚してからAの立場を脅かす者はいなくなった。しかし、そんな絶対者Aにいたずらを仕掛けてくる者がいた。トイレにAを非難する落書きがあったり、Aの机の上の消しゴムがなくなったりした。とうとう、Aのカバンの中の弁当が食べられるという事件が発生し、Aは怒り心頭に発した。何の証拠もなかったが、Aは犯人は中1のOだと決め付けた。Oは以前からAに反抗的な態度をとっていた。OはAに追われて学校の裏山に逃げ込んだが、Aは他の中学の番長に呼びかけ、兵隊を出して山狩りをするように命じた。他校の番長もそれぞれ自分の中学に反抗分子を抱えていたので、いい見せしめだと思い全面的に協力することになった。包囲網は狭まり、Oは逃げ場を失い裏山の洞窟に隠れている。

_ この物語は現在進行中の出来事を戯画化したもので、ひとつの見方ではあると思う。もちろんOはオサナ・ビンラディンでAはアメリカないしはブッシュである。中学校のいじめにたとえるのは不謹慎というむきもあろうが、善対悪の構図で捉えるよりよほど健全な見方ではあるまいか。

_ そこでつらつら考えると、物事はオサマのシナリオどおりに進んでいることに気付く。彼は一方的に敗北することによって米国の暴力を印象付け、米国の支配に反感を持つ人々の憎悪に油を注ぐ。オサマの役割は自分の代でこの戦争に勝利することではなく、多分数十年続く長期戦を後に続く者が有利に戦えるように方向付けるための捨て駒になることなのだ。彼は悲劇を演じ、その物語が語りつづけられることによって、大きな流れを作っていく。オサマの顔には悲劇がよく似合う。

_ 私は今回のテロを国家対反国家の戦いの始まりと位置付けている。その意味では炭そ菌事件も、犯人が仮にイスラムと無関係であったとしても国家解体をもくろむ者であろうから、同じ戦争の異なる局面の話である。アラブ諸国を含めて多くの国が今回米国に同調したのは、それぞれの国が自国内に反国家勢力を抱えていたからである。国家間の戦争の時代が過ぎ、国家内の民族、宗教間の戦争が多発し、次は国家の存在自体を悪とし、国家を崩壊させようとする動きが顕著になる。

_ 近代国家は統一的な価値観の下に少数者を切り捨てる。少数者は宗教や民族だけが理由となって発生するものではない。個人の価値観が国家のそれと違うために阻害され、孤独なテロリストになる者もあるだろう。炭そ菌事件の犯人は多分そんな一人だろう。こんどの戦争はこのようなローンウルフを含めたテロリストと国家との戦いなのだ。その意味で貿易センタービルも大きかったが炭そ菌は世界史的にみればより画期的かもしれない。なにしろ個人(だと思う)が国家、それも超大国、に挑戦しているのだから。沢田研二が自分のアパートで原爆を作る理科の教師の役を演じた「太陽を盗んだ男」を思い出す。

_ この戦争は50年続くと言う人がいる。では50年後の世界はどうなっているだろう。私は国家が消滅することによって戦争は終わると思う。いくつかの大都市が核によって灰になり、強力な細菌兵器が使われ、まず都市が崩壊する。人々は群れることが標的になることに気付き、分散する。サイバーテロによってインターネットも破壊され、細菌検査を受けた郵便によってのみ各集落はコミュニケートする。ケビン・コスナーの「ポストマン」の世界だ。まあ、これでもいいほうかもしれない。細菌兵器しだいでは「12モンキーズ」の世界になる。


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