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2005-03-16 現実と虚構

_ 昨日書いた話を基に、なぜ虚構が現実より感動的になりうるかについて考えてみよう。

_ 「プロジェクトX」が描写した現実は、善意に満ちた教師が不良高校生を涙の力で更正させ、ラグビーの強豪校を育て上げたという美談だ。私のようなひねくれた者は、素直に感動できず、表面の話はいいから本当の所はどうなんだ、と問いたくなる。その教師の本当に欲しかったのは何か、金か、名誉か。仮にそうでなくて、その教師が実際に私心のない善意にあふれた人だったとしても、それがなんだと思ってしまう。私にとっては、そのような完璧な人間は気持ちが悪く、友達にはなりたくない。屈折していない人間には興味がもてない。

_ 「富豪刑事」の場合はどうか。鎌倉警部がラグビー部のコーチになった理由は明確だ。コーチ襲撃事件の犯人を探すためだ。美和子が高校を作ったのも、不良高校生たちの更正が目的ではなく連中を四六時中監視するためだった。でも、ラグビー部の練習が始まると明かな変化が生じる。鎌倉は昔を思い出したかのように情熱的に指導し始め、美和子理事長もそれを夜遅くまで見守り、大きなヤカンを持って走り回る。不良たちも鎌倉たちの熱意に応える。この変化をもたらしたのは、個々人の力というより、スポーツの神様なのだろう。とまれかくまれ、一つの仕掛として作られた高校ラグビー部は命を吹き込まれ、犯罪捜査とは別な、独自の目的に向って動き出す。

_ 次の場面、焼畑学院高校は焼畑カップの決勝に残っている。犯人がラグビー部員の中にいないことが明らかになって、鎌倉は部員たちを前にして叫ぶ「いいか、俺はこれからお前たちに殴られる」「お前たちは腐った大人になるな!」と。キャプテンの小栗は何のことか状況を把握できず、いわれるままに鎌倉を殴る。このエピソードは「スクールウォーズ」のパロディーらしいが、「富豪刑事」では独自の意味を持つ。鎌倉は殴られることにより部員たちと一体になれたのだ。もっとも、この出来事を影から見ていた部下の刑事鶴岡は「そんな問題じゃないが・・・」とつぶやく。殴られたぐらいで、部員達を騙していた事実がなくなるわけではない、ということだ。情に流されがちなストーリーを客観的に見る眼があるのがこの作者の厳しいところだ。

_ 試合は小栗のペナルティーゴールで焼畑学院の逆転勝利となり、部員たちは歓喜の中で走り寄り、鎌倉を胴上げする。それをうれしそうに見る美和子。このドラマはここで現実とは違う感動を生み出した。それは鎌倉や美和子が作った偽りの世界が、ラグビー部員の汗と涙によって浄化され、輝かしい勝利の瞬間をみなが共有することの感動だ。鎌倉の胴上げは、単に勝利の喜びを表現するものではなく、警察と不良少年という対立する異質な存在が一つになったことをあらわし、その重さは私のようなひねくれた者をも感動させる。

_ 逆説だが、虚構にはウソがないのだ。書かれた脚本には、書かれたことしか載っていない。私は現実に涙することはほとんどないが、虚構には安心して涙を流す。虚構は裏切らない。


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