_ 「富豪刑事」についてはもう書かないつもりだったが、最終回がとても良かったのでまた書きたくなった。
_ 最後の場面で、ニューヨーク、パリ、上海と世界の都市にサクラの花びらのように風に乗って運ばれて、空を覆う一万円札。幻想の世界だ。何百億円もの金を使い、美術品を買い、会社を作り、高校を建てた「富豪刑事」の最後の金の使い方がこれだったとは!雪のように降る札を見て、喜久右衛門が「きれいじゃのう」と言うと美和子は「お金じゃなくて、本当の雪だったら良かったのに・・・」とつぶやく。
_ 最大の散財が雪にかなわないという皮肉。マネーゲームにうつつを抜かす昨今の日本に向けられた言葉のようだ。前9話を思い返すと、全てがこの結末を描くためにあったように思える。三島由紀夫の「豊穣の海」の最終章を思い出した、と言ったら誉めすぎだろうか。
_ 喜久右衛門と瀬崎龍平の対決も見事だった。美和子のやさしい言葉に復讐心が揺らいだ瀬崎は、窮地に陥った喜久右衛門と美和子を助けにロールスロイスで登場する。危機が去った後喜久右衛門は瀬崎を見つめて「はて、あなた、どなた?」と問う。瀬崎の50年にわたる喜久右衛門に対する恨みは(それは瀬崎を裏世界の巨魁にした力だった)全く喜久右衛門に通じていなかったのだ。これには笑った後、人生の無常を感じた。一生かけて作り上げた財産とか権力はなんの意味があるのだろうか。人生とは、雪のように不確かではかなく、でも美しいものかもしれない。