_ 「蛇にピアス」は身体を傷つけることに興味がないので、あまり面白くなかった。「蹴りたい背中」は、社会に適応しない女の子の話で、これはよく理解できた。
_ 小説はどんなテーマを選ぼうが結局自分を描くことになる。とくに今回の2作品は、何れも作者自身を書いた私小説のようだ。
_ 「蹴りたい背中」の主人公の、社会に適応している人間に対する敵意と嫌悪感は激しく、こんなに正直に書いていいのかと心配になった。一般的には「蛇にピアス」の方が反社会的と思われているようだが、そうではない。「蛇にピアス」の主人公は相手を選ぶが結局仲間がいないと生きていけない人だ。そして、異端の集団の方がその中の人間関係は親密なのだ。
_ 「蹴りたい背中」の主人公は、どんな社会にいても自分と他人の間に壁をつくる。それは壁というより社会と自分の組成の違いで、細胞と体液の違いで、社会という細胞を接着させて体液を交換しながら生きている生命体への生理的な嫌悪感なのだ。
_ 作者の孤高と痛みが伝わってくるいい作品だ。
_ 更新されなくなったHPは突然亡びた町の遺跡にどこか似ている。それが最後の書き込みという意識無く作られた更新画面がいつまでも残っている。日常が突然断ち切られたポンペイの市民のように、今にも動き出しそうだ。
_ そのように中途半端に終わってしまったHPたちの中にお別れのメッセージを記したものがある。
_ 「2/26を持ちまして、agua e luz は幕を下ろしました。
_ またいつの日か、この仙台の地に戻り再開する時までしばしのお別れです。
_ 3年間ありがとうございました。」
_ アグア・エ・ラズ(水と光というポルトガル語だという)は仙台にあったフレンチレストランだ。おいしいワインを出す本格的なフレンチだという。2/26は去年のことで、もう一年以上経つ。
_ HPには厨房を背にしたスタッフの小さな写真がある。彼(彼女)らは、今東京で修行しながらレストランの再開を期している。その夢がかなうまでには幾多の困難があるだろう。それを乗り越えて夢が実現することを切に祈る。