_ 佐藤究の直木賞受賞後第一作。
_ 三島由紀夫をモチーフにしたという書評を読んで興味を持った。小説としては面白く、一気に読んだが、三島との関係がわからなかった。登場人物の名前、タイの暁の寺、仏教思想などは出てくるが、どれも物語に不可欠なものではなく、むしろ邪魔だ。
_ 主人公、易永透は空と超音速での飛行に魅せられ、最後はタイの上空でミサイルに撃墜される。
_ 魅了された対象と心中するところが三島的といいたいのか。しかし、いったん戦闘機をあきらめた易永がF-35Bと出会ったのは偶然だったし、また、それに乗ることは死に直結するものではない。
_ 三島は、演劇について語ったとき、芝居の脚本は最後の場面を念頭に置き、ストーリーは主人公をそこに、羊飼いが羊を檻に追い込むように、導くものだという趣旨のことを言っていた。三島の人生は自分が書いた芝居を自ら演じたかのものだった。
_ 本作の易永にとって、戦闘機に乗ることは死で完結しなければならない行動だったのか。その点が納得できない。ちなみに、易永が読んだ三島の唯一の作品は「行動学入門」だとのこと。