_ 吉永小百合。早稲田の第二文学部にいたころ文学部の方から坂を降りてくる彼女とすれ違った。友人の中には、図書館で目の前に座られたので本が読めなかったと言っていた者もいた。あのころの小百合は広末の何倍も人気があったと思うが、誰も追いかけず学生である彼女を尊重していたと思う。まだ日本に慎みやけじめが残っていた時代だった。
_ 岩下志麻。「乱」の仕事をしていたころ、製作会社であるヘラルド・エースが並行して「瀬戸内少年野球団」を作っていた。その完成試写会に呼ばれたが、劇場の席がちょうど岩下さんの真後ろになった。彼女は座席に深く腰掛け長い髪を椅子の後ろにたらした。彼女の髪が私の手にかかり、ちょっとアブナイ気持ちになった。
_ 石原慎太郎。国会議員だったころ、私の事務所が入っているビルの前の道ですれ違った。一瞬彼は私の顔をみつめて、どこかで会ったかな、というような目をしたが通り過ぎた。石原さんとは会ったことはないが、1975年の都知事選のとき街宣車の上にいるのを見たことがある。石原が美濃部に負けた選挙だったが、投票日の前日各党の候補者が新宿駅西口に集まった。石原の車には三木武夫総理、中曽根幹事長と応援にきた石原裕次郎が乗っていた。三木は石原が嫌いだったが立場上応援せざるを得ない。三木は応援演説のなかで何回も「石原裕次郎君」と言った。ボケを装った三木一流の抵抗だったのだろう。三木の後ろで慎太郎と裕次郎が顔を見合わせて苦笑していたのが印象的だった。