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2008-04-05 ノーカントリー

_ ネタバレあり。

_ 本年度のアカデミー賞4部門受賞の問題作。

_ 物語は麻薬組織同士の殺し合いの現場に遭遇したカウボーイが放置された200万ドルを持ち去るところから始まる。それを追う麻薬組織の殺し屋。その両方を追う保安官。ここまではよくある活劇だ。でもコーエン兄弟はありふれた設定から意外な世界を描き出す。

_ 力も知恵もあるカウボーイは殺し屋を出し抜くかと思われる。しかし、途中であっけなく殺される。壮絶だったはずの銃撃戦はカットされカウボーイの死体だけが映される。サイコキラーでもある殺し屋が無意味で不可解な殺戮を重ね、カウボーイの残された妻に迫る。 

_ 保安官はカウボーイの死後主役的立場になるが、犯罪を阻止することは出来ず、カウボーイの妻も殺される。

_ 仕事を満足に終えた殺し屋はゆっくり自動車を走らせ青信号を確認して交差点に入る。そこに突然右から暴走車が突っ込む。左腕の骨が突き出るほどの重症を負った殺し屋はそれでも破いたシャツで手を吊っていずこへか去っていく。そこで映画は終わる。

_ ここには勧善懲悪はなく、ヒーローのための栄光ある死もない。殺し屋の殺戮も仕事以外に自分の哲学だか趣味だかに従った殺しもあり不可解だ。この悪魔のような殺し屋に打撃を与えるのは正義でも神でもなく、偶然現れた暴走車だ。

_ この映画は原作に忠実だそうだが、小説でも映画でもそこに描かれる世界は意味を持っているはずだ。それは作者の創造した世界で作者の思想を反映している。その思想は、正義は勝つであったり悪は栄えるであったり多様だが、思想を表現するためにストーリーが考えられ登場人物が設定される。ではこの作品が訴えたいことは何か。それは世界には意味が無いということではないか。

_ ここに描かれた世界は従来の創作の世界より現実の世界に近いのだ。現実世界では善行が報われるという保証はなく、悪が倒されるとしても倒す側が正義とは限らない。世界が正しい方向に向かっているという実感はなく。そもそも何が正しい方向か分からない。

_ 老保安官が、No country for old men と言うがこれがオリジナルのタイトルだ。無意味な殺戮が横行する今のこの国は昔と違う。老人の住める国ではない。それは何も今のアメリカに限ったわけではない。日本の最近の理由なき殺人事件を見ていると、世界全体がそのように変わりつつあることを感じる。でもそれが狂っていると断じれば済む話ではない。むしろ不条理が世界の本質かもしれないからだ。

_ もし、人間に、人生に、そして世界に意味がなければ理由なき殺人が起きるのも必然かもしれない。そのテーマで書いたのが小説のコーナーに掲載してる「あとにつづく者」で25歳の時の作品。


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