少数意見

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2002-04-02 黒い家

_ 大竹しのぶが熱演しているホラー。ネタバレあり。

_ 最初に目を奪われるのは大竹の夫の異常な動きだ。頭を絶えず上下に動かし、自分の身体をコントロールできないため洗車の際自分にホースで水をかけてしまう。神経症的な動きだが、森田監督はこの動きで精神の異常を表現しようとしているようだ。

_ この映画には異常な動きをする人間が他にも出てくる。主人公若槻の大学の助教授金石(犯罪心理学専門)はやたらと身体をくねらす。金石の遺体を見せるために若槻を案内する警察の人は右半身が不自由なようだった。

_ 若槻自身水を叩きつけるようなクロールで周囲に迷惑をかける。若槻の部屋のプリンターに「みずしぶき、たてすぎ」という文章が打ち出されるのは(誰からのメッセージか不明)森田監督が若槻の泳法に特別な意味を与えていたことを示している。

_ この中で大竹しのぶは目つきがおかしいほかはいたって正常だ。何回かボーリング場のシーンが出てくるが、彼女はきれいなフォームでストライクを連発する。彼女は身体を完全にコントロールしている人間として描かれる。しかし、彼女が大量殺人の犯人なのだ。

_ 森田監督はなにを言いたかったのでであろうか。うがった見方だが、森田監督には大竹の視点、すなわち正常な身体の人間が病的な身体の人間に対して感じる嫌悪感、に共鳴するところがあったのではないか。ナチスが犯罪者や精神異常者を抹殺したのは有名な話で、今の世の中でそれを支持する人はいないが、人の心理の奥底にはそれを是認するなにかがあるのではないか。あなたは電車の中で変な動きをする人がいた場合、その人から遠ざかろうとするのではないか。このように考えると、この映画は我々の中に潜むホラーに光を当てることをもくろんでいるように思える。


2005-04-02 アビエイター

_ 「市民ケーン」と似ていると思った。しかし、かの名作にははるかに及ばない。

_ 「市民ケーン」は、新聞王ランドルフ・ハーストが死ぬときにつぶやいた”rose bud”(薔薇のつぼみ)という言葉ではじまり、そのキーワードで彼の人生を解明しようとする。

_ 「アビエイター」も”quarantine”(伝染病予防のための隔離)という言葉がキーワードになる。この言葉は、ハワード・ヒューズの強迫神経症(過度の潔癖症)の代名詞のように何回も映画の中でヒューズ役のデカプリオが口にする。

_ 「市民ケーン」では、最後に”rose bud”の意味が明かされ、それまでに語られたハーストの人生に別な光を当てる。人生にとって何が一番大切なのかを考えさせる結末だ。

_ これに比べると「アビエイター」のキーワードは作品のテーマと結びつかない。強迫神経症はヒューズの個人的な問題でそれは観客が共有できるものではない。華麗な実業家が病んだ一面を持っていたという事実を描くだけで、観客からすれば強者にも弱点があったという興味本意な関心しか抱けない。

_ デカプリオの演技はヒューズの弱い面を出したときは良かったが、強い実業家には全く見えなかった。また「市民ケーン」と比較して悪いけど、製作時監督主演のオーソン・ウェルズは25才。老け役まで見事に演じていた。天才だからしょうがないが、いやになってしまう。


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