_ 2003年X月30日夜 将軍主催の晩餐会は終わりに近づいていた。
_ 首相は時計を見た。そろそろワクチンの接種が主要都市で始まる時間だった。死者の数は10万を超えていた。ワクチンの効果があることを祈るしかない、と首相は思った。
「君はどこで間違ったか分かっているよね。そう、あの5人を帰さなかったことだよ。君は国と国の約束を破ったのだよ。どうせ、犯罪者相手の約束と思ったのかもしれないが、あれは私と私の祖国を侮辱するものだよ。そう、あれが我々の民族の積年の怒りに火をつけたのだ。屈辱の歴史がどんなものか君には分からないだろう」
_ 首相は目を閉じて考えていた。これまでの自分の判断については歴史が評価するだろう。ただ、自分には最後の仕事があり、それをいかに立派に果たすかが問題だ。今まで読んだり聞いたりした自刃の作法を思い出していた。これから国を再建していく日本人が恥ずかしくないものにしなくてはならない。
_ エピローグ
_ 帰国から3日後、首相は立派に自決した。ワクチンは予想以上の効果があり、1ヶ月後には新たな患者の発生はなくなった。8ヶ月後北朝鮮の政権は崩壊し、将軍は処刑されたという。
_ (完)