_ 石井裕也監督作品。
_ 重度障害者施設、やまゆり園の事件を描いた作品。犯人の思想が披歴されていて、説得力がある。監督としては、そのような思想を否定するヒューマニズムを提示したかったのだろうが、成功はしていない。
_ 犯人には論理がある。それを否定するには、より鋭い論理で対抗するしかない。しかし、それは難しい。彼は、正論を述べているのだ。
_ 本作は、情を盾にして論理に対抗しようとする。それしかないだろう。ただし、情は揺れ動く。今回のハマスとイスラエルの件を見れば明らかだろう。どっちにも情はある。
_ 本作では、意思疎通ができない42歳の女性患者とその母親が出てくる。ほかの患者の親族はめったに見舞いにも来ないが、この母親は娘と心が通じている(と信じている)。もう一人、看護師の女性の長男がいる。心臓疾患のため、話もできないうちに3歳で死んだ。
_ 意思疎通ができない者を殺していいのなら、これらの二人はどうなんだ。親は、意思疎通ができなくてもかわいいのだ。殺される者の親の気持ちをどう考えているのか。と犯人に問う。
_ 観客はこの情による反撃に動かされるだろう。しかし、立ち止まって考えてみると、悲しむ親族のいない意思疎通ができない患者はどういう位置づけになるのか。悲しむ者がいる人といない人で命の価値は違うのか。
_ もっと飛躍すれば、飼い主と意思疎通ができるペットがいたら、その命はどこに位置するのだろうか。