_ スペインのペドロ・アルモドバル監督作品。
_ 小説家であるマーサは、昔の親友イングリッドが末期がんであることを知り、見舞いに行ったが、あることを頼まれる。それは、自分は治療を拒否して死にたいと思うが、その時、マーサに隣の部屋にいてほしいというもの。二人は、森の中の瀟洒な家で最後の時間を過ごすことになる。
_ マーサも戦場ジャーナリストだったイングリッドも、裕福なようで、森の中の家は小さなホテルのようでプールまである。都会での生活も美術品に囲まれ、ゴージャスだ。
_ ここで描かれている死は、市井のみじめったらしいそれではなく、人生のフィナーレなのだ。イングリッドは自ら手に入れた毒薬で死ぬが、死に顔は眠っているようだった。実際はそんなわけはないだろう。これは、リアリティのない、あらまほしき死だ。
_ おかしな話だが、我々は、現代の死が、苦痛を長引かせる拷問のようなものだと知っている。医療の進歩がそれをもたらしている。しかし、自分だけはそのような一般的な苦痛に満ちた死ではなく、眠るような死に値すると思っている。
_ 誰もが、死を免れない。そして、現代の死は、9割が苦痛に満ちたものだ。そして、その苦痛から逃れようとしたときには、すでに自殺する体力がなくなっている。
_ そのようなみじめな最期を回避するためには、体力気力があるうちに死ぬべきなのだ。思想家西部邁は2018年に自殺したが、老齢で身体の自由が利かなくなっていて、自分の弟子二人に手伝ってもらって入水自殺を遂げた。二人は自殺ほう助で逮捕され執行猶予付きの判決を受けた。
_ 死は、人間に与えられた最後の自由のはずだ。