_ 先日の新聞のコラムに、不良債権処理が進まないのは不良債権を通じて官僚や経済界にアンダーワールドの勢力が深く入り込んでいるからだと書いてあった。これは常識なのかもしれないが、その方面にうといのでビックリした。これで日本経済が崩壊し、世界恐慌が起きたら、その原因はヤクザだということになる。
_ 私が仕事を通じてそちらの社会の人間と会ったのは多分2回だけで、ひとつはマイケル・ジャクソンの日本公演がらみだった。
_ 1985年の春頃、映画「乱」の関係者の紹介ということである会社が契約書を翻訳してくれといってきた。その契約書がマイケル・ジャクソンの日本公演に関するもので、簡単なものだった。契約書を持ってきた男は、筋肉質の長身、眼光鋭く、動きに無駄がなかった。私が普段相手するくたびれたサラリーマンとは雰囲気が違っていた。話してみると頭も切れ、魅力的な人物だった。
_ 仕事はすぐ終わったが請求した翻訳料は払われず、そのうち山口組の幹部がFBIのおとり捜査にひっかかりハワイで捕まったというニュースが流れた。山口組系の竹中組相談役竹中正と織田組組長織田譲二はマイケル・ジャクソン公演の手数料と称してとられた55万ドルを取り戻そうとしてハワイに乗り込んだところ、麻薬取引と銃器密輸の嫌疑にて逮捕されたとのこと。そもそもマイケル・ジャクソン日本公演自体がFBIがでっち上げた架空のものだった。
_ 結局私はFBIの作った契約書を翻訳したようで、お金は払ってもらえなかった。契約書を持ってきたあの男は多分山口組の人だったのだろう。前述のおとり捜査はホノルル連邦裁判所でさばかれ、陪審評決により竹中・織田両氏は無罪になった。この顛末は元山口組顧問弁護士の山之内幸夫氏の「山口組太平洋捕物帳」(徳間書店)にくわしい。
_ さて、もうひとつのアンダーワールドとの遭遇については別の機会に。
_ 橋口亮輔監督作品。キネマ旬報の日本映画一位。
_ 3、4組の男女の人生を並行して描く。相互の接点はほとんどない。イニャリトゥの「アモーレス・ぺロス」、や「バベル」と同じような構成。
_ 退屈はしなかったが、観終わってくたびれた。爽快感はない。
_ 日本映画の力作は往々にして内向的で内面の闇へと際限なく沈んでいく。この作品で言えば、妻を通り魔に殺された若者が苦悩する。彼は、心神喪失で無罪になった犯人に復讐することも自殺することも出来ずただ泣く。
_ 問題を社会問題として捉える方向性はなく。解決はない。最近日本映画が問題意識の高い外国映画に国際的な映画賞で負ける原因がここにある。
_ 評判がいいので観たがつまらなかった。
_ そもそも、QUEENの曲をほとんど知らず。曲での感動はなかった。ストーリーは陳腐で、主人公のフレディーは自分で言っていたようにass holeで共感できなかった。
_ バンドの映画はかなり観ているほうで、曲を全く知らないラップのストレイト・アウタ・コンプトンなども面白かった。
_ なぜボヘミアン・ラプソディが合わなうのかわからないが、先日会った大学同期の男がやはりつまらなかったと言っていた。「俺たちはビートルズだよな」と互いに納得していた。
_ ヴィム・ヴェンダース監督、役所広司主演。
_ 退屈はしなかったが、傑作だとは思わない。
_ トイレ清掃員、平山、の日常を描く。掃除するトイレがみなきれいで不自然。渋谷のトイレ宣伝プロジェクトから発展してできたというが、普通の公共トイレは便がこびりつき、小便があふれ、時には嘔吐物がまき散らされている。それはないことにして、観光映画のようなきれいな渋谷のトイレと、スカイツリーを見上げる下町と、首都高速道路の景観を外国人向けに描いている。
_ 平山の周りの登場人物はおおむねいい人たちで、孤独な主人公を一人にしない。そして、完璧な日常は、痛みがないかのように続いていく。
_ このようなおとぎ話でなく、現実を描くとすれば、コミュ障の平山は、周囲から疎外され、仕事は過酷で、老いは逃れようがなく、金はなく、希望もない。最後の場面、清掃用の車を運転する平山の表情は、笑っているのか泣いているのか。ひょっとして、車両の荷台には、大量のガソリンを詰めたポリタンクが積まれているのではないか。