少数意見

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2002-06-06 ユリョン(幽霊)

_ 1999年製作の韓国映画。ネタバレあり。

_ ユリョンは韓国が極秘に建造した核ミサイルを搭載した原子力潜水艦である。ユリョンは日本の潜水艦と接触事故を起こしたためその存在が日本とアメリカに知れ、両国の圧力により自爆させられることになる。航海の目的を察知した副艦長は艦長を殺害し艦をのっとる。日本海で遭遇した日本の潜水艦二隻を撃沈し、10発の核ミサイルを日本の10大都市に向け発射しようとする。これをヒーローのイ・チャンソクが阻止するのだが、アメリカ映画などと違って考えさせられる。

_ なぜ日本を攻撃するのかは、特に理由が示されず、唐突な感じがしたが、最期の場面で納得した。自爆装置が作動し、回復不能な損害を被った潜水艦の中で、副艦長とイ・チャンソクが対峙する。イは「核で歴史は変えられない。待っているのは報復だけだ」と言い、「まだ準備が出来ていない」と続ける。その直後、日本の潜水艦から魚雷が発射されたことが告げられる。副艦長は言う。

_ 「魚雷に負けたのではない。強くなることを恐れた我々自身に責任がある。強くならなければ踏みにじられて生きるしかない。つい最近まで、我々の歴史はあらゆる屈辱に耐えてきた」

_ 「まだ終わっていないのだ。一日で歴史は変わるか?いつまで屈辱の歴史を生きろと?」

_ 「傲慢なアメリカ野郎や日本野郎に五千年の歴史は渡さない。”幽霊”は我々自身で、我々の運命(ハン)だ」

_ ここは感動的だ。多少韓国の歴史を知っている人間にとっては、日本に対する復讐が民族の意志であることが分かる。この映画を観ていた韓国の人々はせめて映画の中だけでも日本が核の火に焼き尽くされるところを見たかっただろう。しかし核ミサイルのボタンは押されず、ユリョンは海の藻屑と消える。

_ 私がこの映画から学んだことは、日本は遠からず核武装せざるを得ないだろうということだ。韓国、北朝鮮、中国等に対する罪は謝ってすむものではなく、謝るべきものでもないだろう。副艦長が言うように、強くなることを恐れることは罪なのだ。歴史の屈辱は報復でのみ癒され、報復を防ぐのは強さだけなのだ。イ・チャンソクは決して日本の非武装中立論者のような無責任な平和主義者ではなく、現実主義者だ。彼は多分副艦長と心情的には共通のものを持っている。ただ現状認識が違うのだ。まだ報復のために機は熟していない。今やれば報復されるだけだ。

_ 韓国、北朝鮮が核武装したとき日本に出来ることは何か?彼らの核をなるべく使いにくくすることだ。イ・チャンソクのような冷静な現実主義者が過激な考えをもつ人間に対して、日本に核攻撃を仕掛ければ核の報復がくる、祖国のためにならない、といえるような環境を作ってあげるのだ。

_ 福田官房長官の最近の発言はそのための地ならしかなとも思う。日本人の核アレルギーというのは、病的で何かのきっかけで軍国主義に転じる。その日は近い。


2005-06-06 ミリオンダラー・ベイビー

_ ネタバレあり。

_ 「ロッキー」ばりのサクセスストーリーかと思って半分過ぎたところで、突然奈落の底に突き落とされる。マギー(ヒラリー・スワンク)は、世界タイトルに挑戦する試合でラウンドの終了後の反則攻撃で倒され、コーナーからフランキー(クリント・イーストウッド)が差し入れた椅子に頭を打って首の骨を折る。首から下が麻痺したマギーは、ハリウッド映画的な奇跡のカンバックはなく、人工呼吸器なしでは生きられなくなる。気丈なマギーも、壊死した左足を切断され、気落ちする。マギーは、事故の前にフランキーに話したことのある昔飼っていた犬の話をする。その犬は下半身不随だったが、前足だけで家の中を走り回っていた。マギーの父親は当時具合が悪く、先が長くないことを悟っていた。ある日、父親はスコップを持って犬を連れて車で森に向った。犬は久しぶりの外出を喜んでいた。父親は土に汚れたスコップを持って帰ってきたが、犬はいなかった。マギーは父親が、犬にしてくれたことを自分にもしてくれとフランキーに哀願するが、フランキーは拒否する。

_ マギーは舌を噛んで死のうとするが、失血死寸前で助けられる。しかし、また同じ事を繰り返し、鎮静剤を打たれる。マギーはフランキーに訴えていた。自分は貴方のおかげで世界タイトル戦まで経験した。何もなかった人生ならこれからの人生も耐えられるかもしれないが、自分にはあの興奮と自分の名前を呼ぶ観客の声が忘れられない。このままこのように生きていればあの感激が失われてしまう。

_ フランキーは毎週礼拝に通っていた神父に言う。マギーは挑戦したんだ(she gave it a shot)、だからもういいのではないか。自分の思うように生きたのだから。神父はこれまでフランキーがどのような罪を犯してきたかは知らないが、今度しようとしていることはそれと比較できないほど重大なものだと言う。

_ フランキーは夜、病院に忍び込み呼吸器をはずし、致死量のアドレナリンを注射し、行方不明になる。フランキーのカバンの中にはもう一本注射器が入っていた。

_ (上記会話は、一回しか見ていないので正確ではない。)

_ 最初は、尊厳死の話で、前半の華やかな物語は、後半との明暗を際立たせるためにあるのかと思った。しかし、しばらく考えて、she gave it a shotというフレーズが引っかかった。shotという言葉はその前にも何回か出てきた。フランキーの主義は、タイトルへのshot(挑戦)は未熟なうちには与えられない、というものだ。その機を待ちすぎたために他のマネージャーに取られてしまった有望なボクサーもいた。フランキーにとってshotとは人生で何度もあることではないのだ。

_ マギーは、ただの不幸な人としては描かれていない。マギーは栄光の座に手の届く所にいた。短かったが、皆がマギーに注目し賞賛し声援を送った日々があった。マギーは負け犬ではなく、選ばれた者だった。マギーは、自分の人生の輝かしい部分を汚すことなく消えていきたかったのだ。マギーを造り上げたフランキーは、神の教えに逆らって、マギーに死を与えた。これは一つの神話なのだ。


2006-06-06 村上世彰逮捕

_ 村上世彰が容疑を認める記者会見を終えてから逮捕された。プロ中のプロとして逮捕されても裁判では絶対無罪になると自信ありげに語っていた同氏が何故突然降参したのか。諸説あるが、裁判で勝つ見込みが無いと判断したのだろう。

_ では何故プロ中のプロがそのように危ない取引をしたのか。本人はインサイダーの認識はなかったと弁解しているが、危険は十分わかっていたはずだ。それでも引き返さなかったのは何故か。多分みんなが同じようなことをしていたからだろう。

_ 私は、バブルの頃ささやかな株投資をしていた。その時学んだのは、証券会社の薦める株を買ったら損をするということだった。証券会社が教えてくれる情報は誰かが噛んで捨てたガムのようなもので、何の価値も無い。本当に価値のある情報を手に入れるのは少数の特別な人で、その連中がクリームの部分を持っていくのだ。日本の証券市場はインサイダー天国だった。今でもそれは変わっていないのではないか。

_ 「辻元さんの罪」という項でも書いたが、日本の法律はダブルスタンダードだ。違法が野放しになっていてそれが常態である世界がそこらに存在する。しかし、そんな世界でも目立ちすぎると司直は当然のごとく摘発する。マスコミも、目立たない悪には目をつぶり、血祭りに挙げられた犠牲者のみを糾弾する。

_ これは日本特有の現象ではないかと思うが、あまり論じたものがない。言挙げすること自体がタブーなのだろうか。


2017-06-06 美しい星

_ 三島由紀夫の小説「美しい星」の映画化。

_ まあ面白かったが、地球温暖化が人類の危機だとするのは無理がある。やはり原作のように核戦争の危機のほうが説得力がある。

_ それから最後は円盤を登場させてほしかった。その代りに円盤の内部の描写があったが、安普請の家のようで、階段をガタガタと音をさせて駆け上がるのは興ざめだ。

_ 三島と「美しい星」について話したことは「三島由紀夫会見記」に書いたが、実は三島と会うまでは彼の作品はほとんど読んでいなかった。家にあった日本文学全集に入っていた「仮面の告白」を読んだぐらいだった。急に三島と会うことになったので何作か読んだが、その一つが「美しい星」だった。最後に円盤が出てくるところで感動した。だから映画でも「未知との遭遇」のような巨大な円盤を登場させてほしかった。


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