_ 昨日渋谷で観たが、すばらしい作品だった。観客は少なくもったいない。
_ 三島由起夫の「豊穣の海」と似ていると思った。「豊穣の海」は(すごーく簡単に言うと)純粋な情熱に突き動かされて20才に満たない人生を終え、そして転生する若者たちの80年に及ぶ物語だ。「千年女優」は70才になる往年の大女優、藤原千代子、のインタビューとして構成されている。しかし、映像は千代子の出演作に応じて王朝時代から未来までの1000年を映し出す。千代子が少女時代にめぐり会った革命家の青年との淡い初恋と別離は異なった時代を舞台に何回も再現される。それは、ひとつの純粋な情熱が転生により異なった個体で違う形で発現されるのに似ている。
_ 人生の経験をそれなりに重ねてきた者としては、千代子のさまざまな時代を背景にした恋が自らの過去の思い出とオーバーラップする。ノスタルジーとナルチシズムに酔っている私に千代子の最後のセリフが聞こえてくる。
_ 「でも、私はあの人を追いかける自分がすきなんだもん」
_ 監督!それを言っちゃお終いよ!
_ 何れも食をテーマにした映画。圧倒的に「南極料理人」の料理の方が美味そうに見えた。
_ どちらも大事件がおきるわけではなく、日常の小さな出来事を描いている。しかし、その日常が全く違う。「南極」は零下70度の、風邪のウィルスまで絶滅してしまう世界だ。そのような極限の状況で仕事をする男たちにとって食事は我々が考えている以上に重要だ。
_ 「南極」に登場した料理のなかでも、持って行ったラーメンがなくなったとき、乾水(炭酸ナトリウム入りの水)を作るところから始めたラーメンがやたら美味しそうだった。多分私が観た映画の中の料理で一二を争う。もう一つ挙げるとすれば「刑務所の中」に出てきた、特別な日に出されるアジフライか。
_ 「南極」と「刑務所」は腹がへったからちょっと外食するとかコンビニに行くとか出来ないところが似ている。そういう状況での食事は想像を絶する価値を持つのだろう。
_ グルメ本やテレビの番組で料理の味を比較して優劣を付けたりしているが、味は相対的なもので、食事の環境や本人の身体の状況で大きく変わる。最近やっとそれが分かったので、一回だけ食べてまずいと思ったものには断定的な評価をしないようにしている。もっとも、そのような料理をもう一回食べに行くかは分からないが。
_ ユーロスペースで観た。
_ 評判のゾンビ映画というだけの知識で観たが、ゾンビ映画の撮影隊が本物のゾンビに襲われるという話。面白くないわけではなかったが、あっという間にエンドロールが始まった。
_ しかし、ここで帰ったらだめで、場面は一カ月前の映画の企画が監督に持ち込まれたときにさかのぼる。つまり、この映画はゾンビ映画のメイキングものなのだ。
_ その企画というのが、生放送でそれもワンカットでとるというもの。つまりカメラを止めることができないのだ。この制約の下で多くの困難が発生するが、それらを解決しながら最初の短い映画がどのようにできたかが見ものなのだ。
_ 最初におかしな演出と感じられたところにすべて理由があり、その謎解きが面白い。多分脚本に多大の時間をかけたのだろう。DVDで観たら何回も楽しめそうだ。